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生き方

"勝つ弁護士"が選んだ「敗訴を受け入れる」という戦略

矢部正秋(やべまさあき/弁護士)

2018年10月24日 公開 2019年10月30日 更新

自分の目線ではなく、相手の目線で考えること

自分目線を脇に置いて相手目線に立つと、風景はガラリと変わって見える。それまで見えなかった新しい現実が浮かび上がる。
それは、今までよりも、はるかにリアルな現実である。
しかし、人はついつい自分目線で見てしまう。そんな例を二つ。

一つは、火災保険をかけたときのことである。
保険代理店の担当者が、建物価格の100%を20年間付保する見積書を持ってきた。

わたしは10年先の話など信じない。保険会社がつぶれるかもしれない。高い保険料を先払いしたところで、ハイパー・インフレがやってくれば無駄になる。また、火災のリスクは小さいから、100%補償してもらう必要もない。

わたしは「ネットで損害保険の価格比較サイトを調べた」と切り出した。すると担当者のトーンが急に変わり、60%補償、80%補償などのプランを提案してきた。期間も3年とか5年の短期でもよいという。
期間と補償割合を組み合わせると、さまざまな細かいプランができる。

それなら初めから選択肢を話してくれればよい。自分目線で商売に都合のよい話だけを持ちかけるから、この担当者はいまいち信頼に欠けるのである。

もう一つは、わたしの還暦祝いに妻が草津温泉の高級旅館を予約してくれたときのこと。草津は家族でも何度か来ている。今回も湯量が豊富でよさそうな宿である。

ところが初日の夜10時ごろ、仲居さんが夜食だとおにぎりを2個持ってくる。「夜食は取らないので、もったいないから返してください」と断った。しかし彼女は「温泉に入るとお腹が空くかもしれませんので」とやや強引に冷蔵庫に入れていった。

翌朝、その仲居さんは、食べなかったおにぎりを処分した。しかし、その夜もおにぎりを持ってくる。再び断ったが、板前の方針なので彼女は何もいえないらしい。

これが3日続いて、さすがにあきれてしまった。

客の希望を知ることはビジネスの基本。理由はどうあれ、これでは「おもてなし」ではなく、自分目線の「押し付け」である。この宿はリピーターを獲得する機会を失ってしまった。

相手目線に立つことは、これほどに難しい。自分の考えを転換しなければならないからである。そのためには、相手への共感力が不可欠である。

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