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本が読めなかった精神科医を救った「三角読み読書術」

名越康文(精神科医)

2018年12月14日 公開 2024年12月16日 更新

本が読めなかった精神科医を救った「三角読み読書術」

<<専門分野のみならず博学なことで知られる精神科医・名越康文氏は、意外なことに“読書嫌い”だったそう。

しかし、苦手なりに読書をし続け、その中から多くの知識と教養を得てきた。読書嫌いだからこそ「量」ではなく「質」を取る読書の仕方を探り、読書術を編み出してきた名越氏は、手軽に読めるビジネス書やハウツー本など優しい本ではなく、あえて「不親切な本」を読めという。その心とは?>>

※本稿は名越康文著『精神科医が教える 良質読書』(かんき出版)より一部抜粋・編集したものです
 

「不親切な本」を読むことで人は成長する

小学生のとき、私は親からさんざん難しい文学書を読ませられたせいもあり、読書が嫌いになってしまいました。

30歳をすぎてから必要性を感じて本格的にまた読書をはじめ、今では少ないときは月に5冊、多いときは10冊の本を読むようになりました。ですが、実は今でも読書は苦手なままです。

集中力がなく、読書が苦手な私が読書をし続けている理由は2つあります。

1つ目は、テレビのコメンテーターや講演などでアウトプットが必要だから。常に情報をインプット&アップデートし、アウトプットの質を高めるための読書です。

2つ目は、私が「読書とは自分に会うためにするもの」と思っているからです。「自分に会うため」とは、精神科医である私が昔から胸に抱えているテーマ、「人間とは何か」を考えることでもあります。

最近ベストセラーになる本は、知識や教養についてわかりやすく書いてくれている「やさしい本」が多いです。

著者もわかりやすく書いてくれていますし、編集やデザインも洗練され、活字も大きく、読みやすいような工夫が施されています(ちなみに私の著書でもそれを心がけています)。これらはスイスイ読めてわかりやすい、「親切な本」といえるでしょう。

このような「親切な本」を読んで知識を増やすことも、もちろん便利でよいのです。

しかし、読みやすい本ばかり読んでいては、成長に結びつかないと私は思っています。自分がラクにできる筋トレをしても、筋肉がつかないのと同じです。ある程度負荷をかけないと、筋肉はつきません。

舗装された山道を歩いて山頂までいくのは簡単でラクですし、達成感もそこそこはあるでしょう。しかし、整備も行き届かないような道なき道を、自分の知恵と経験を振り絞りながら苦労して歩いて山頂まで行くほうが、力もつきますし記憶にも残り、何より、喜びも大きい。

人はある意味、背伸びすることによって初めて成長できるのです。そうすることで、人生で経験するさまざまな「限界」や「壁」を乗り越えることができます。

1時間くらいウォーミングアップして心身の状態を整え、ようやくその重い扉が開ける。自分からしがみついていかないと、はねつけられてしまいそうになる本。そんな、「不親切な本」こそが、あなたを成長させてくれる本なのです。

古典といわれる作品や、名著と呼ばれる本など、今の自分の読解力や教養では理解できなさそうな本は必ずあります。

いわば、さまざまなジャンルの頂点に位置する“頂(いただき)にある本”です。私でいえば空海の原著などが、それにあたります。それをいつもカバンに忍ばせておき、「よし!」と思ったときにチャレンジしてみる。
そんな限界を超える本は、スイスイ読み進めることは難しく、一回に数ページ、あるいは数行しか進まないはずです。

しかし、チャレンジすることによって、少しでも「限界を超えた」という感覚が得られれば、それは今後の人生を生きてゆく力になっていきます。
そうした経験を積み重ねていくことで、人生で出くわすきつい場面を乗り切るための力が得られるのです。

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