自分で考え行動する教員 やまた幼稚園 国際バカロレアへの挑戦
2018年12月25日 公開 2019年01月22日 更新
世の中に足りない! 歯科衛生士の育成を
――その他、手がけられている教育事業はありますか?
(谷澤)幼児教育以外の領域も手掛けるようになりました。小学生、中学生向けの教育事業がありますが、歯科衛生士の育成という領域は、教育事業以外への多角化のきっかけになるかもしれません。
私は弁護士として、法律事務所、金融庁、投資銀行などで働いていたことがありますが、そういった経歴を踏まえ、旧知の銀行経由で専門学校の事業承継の話がきました。アポロ歯科衛生士専門学校という、国家資格である歯科衛生士の取得をめざす学校です。
歯科衛生士は、フッ素を塗るなど医療機関でしか使うことのできない器や薬剤を使ってプラークや歯石取りなど予防医療を行うプロフェッショナルです。
また今後は「予防歯科」の時代。歯科衛生士は予防医療を担う中心であり、問題があれば歯科医師に報告し、治療を施す流れに変わっていくはずです。その状況のなかで、歯科衛生士の頭数がかなり必要になってくるでしょう。
しかし、歯科医師に対して歯科衛生士は世の中に足りていない。ゆえにわれわれは、歯科衛生士という職業の魅力を訴えながら、その所得も上がるようなアプローチを考え、応募者を増やしていきたいのです。
ゆくゆくは、この専門学校を基点に人材紹介業を行う。あるいは資格を保有しながら働いていない人の再教育のための研修事業を手掛ける。併設のクリニックを開設することなどを視野に入れています。
これらは私一人ではできないので、事業を共同で担うパートナーを探し、その人物と一緒に経営を行っています。おかげさまで、昨年に比べて倍増に近いペースで、入学希望者がきてくれました。この学校も、これからどんどん進化させていくことができると思います。
「数字からやると受け付けてもらえないから、人事からやりますか」
――元々弁護士でいらっしゃいながら、どんどん教育事業を拡大されてきた。いつから、どのように経営の勉強をしてきたのですか?
(谷澤)弁護士としては、投資銀行やメガバンクなど金融機関が主要なクライアント層であったこともあり、クライアントがビジネスジャッジを行えるように法的な分析を踏まえた上で選択肢を提示する役回りが多かったです。
キャリアを重ねながらも、ビジネスジャッジを行なう側の方が、自分の性分にはあっているかもしれない、とも感じていました。振り返ってみれば、法律事務所、官公庁、投資銀行で、様々な組織の運営を肌身で感じられたのも良き糧になったと思います。
座学としては、いわゆるMBAで用いられている教科書のほか、名経営者といわれる人の生き方、考え方を学ぶために、松下幸之助さんの本も稲盛和夫さんの本も読んできました。
稲盛さんの本を最初に読んだのは、金融庁の同僚からの紹介で、そこで「アメーバ経営」のことを知りました。とはいえ、当時は、たんに知識を得たに過ぎない感じでしたね。
その後、私の師匠が鉱山会社の経営再建に取り組まれており、私も取締役に名を連ねることになりました。その会社ではアメーバ経営を導入していて、京セラ流を体得したコンサルタントの指導の下で管理会計や人事の施策を間近で知ることになります。
それが理にかなっており、同社では効果を発揮していたので、義父から受け継いで妻が理事長兼園長をしていた「やまた幼稚園」に、「アメーバ経営を導入したらどうか」と提案しました。
そして京セラコミュニケーションシステム(KCCS)のコンサルタントの先生方にご指導をお願いしてみたのですが、一般企業と同じ感覚で数字を前面に出したせいか、幼稚園の教職員がみんな、管理会計にアレルギーを起こして大失敗。総スカンを食いました。
その後、「数字からやるとはじかれたので、人事から巻き返しをはかりたい」と新たな提案を受けました。そのころ、私も、妻から引き継いで栗原学園の理事長になったので、再度取り組み始めました。
――人事制度を変えるのにも、相当な抵抗がありませんでしたか?
(谷澤)人事制度を整え、目標管理をしていくに当たり、教職員の評価基準を整備しなければなりません。「園児に何を実現させているか」、その実現目標を明確化させ、合理的・客観的に評価する必要がありました。
とはいえ、幼児教育においてテストの点数を競うのはナンセンスです。学校教育は、ともすると内向きの評価に偏りがちですから、客観性を持たせる一助となるよう保護者の目線を取り入れることにしました。そこで、日本能率協会の指導のもと、保護者の方々の顧客満足度(CS)の調査を導入しました。
保護者アンケートを導入するにあたっても、教職員が主体的に取り組みたくなるような形でなければうまくいきません。幼児教育において、子どもの「やりたい」、「やってみたい」という気持ちを引き出すのと同じだと思います。
保護者に対するアンケート項目で教員がアレルギーを起さないよう、配慮しました。「何をもって評価されたいか、自分たちで考えてほしい」と、まずは教職員にアンケート項目を考えてもらう。その内容を、日本能率協会の指導のもとで練り直しました。
一般的な保護者アンケートと異なり、教職員が何を持って評価されたいかという点に絞って質問していたので、当時の保護者の中に面食らう方がいらっしゃったのも無理はないかもしれません。アンケート結果は日本能率協会のプロに分析してもらいました。
すると、どの目標の実現度が園児募集の結果との相関が高くなるかがわかってきました。たとえば、「のびのび遊ぶ元気な子」「自分で考え行動する子」「動植物に触れ合える環境」という3指標の内、「自分で考え行動する子」の実現度が高い場合、園に対する推薦意識も高いということが見てとれたのです。
また、「あなたのお子さんは、体を動かす遊びをよくやるようになりましたか」とか、「ご家庭で歌や踊りを楽しむようになりましたか」「本を読むのを楽しみにするようになりましたか」「語彙が増えましたか」などの園内の活動内容を踏まえた質問項目を通じて、ベテランの先生、若手の先生に関係なく、教える側の能力をある程度客観的に評価出来るようになりました。
結果、単純な経験年数のヒエラルキーが崩れ、旧態依然としていた組織が変わり、「自分で教育内容を考え、工夫し、変えられる」ということに自覚的になり、そういった活動を好む教員のモチベーションも上がっていったのではないかと思います。
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