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自分で考え行動する教員 やまた幼稚園 国際バカロレアへの挑戦

谷澤満(学校法人栗原学園グループ理事長)

2018年12月25日 公開 2019年01月22日 更新

「英語教育なら、やまた幼稚園」というブランディング

やまた幼稚園

――先生方が刺激しあって、良い方向に変わっていったのですか……。教育産業にアメーバ経営を導入したメリットはどのようなものでしたか?

(谷澤)保護者は普段の教育をみているわけではありませんが、自分のお子さんの変化はよくみています。そういった変化は、統計的に意味のある数を集めれば、数値に現れてきます。

こういった結果を分析するワークショップを実施し、「この先生は、こういう活動をしたから、子どもたちが変化したのではないか」、「誰々先生はこのやり方が得意だね」など、「うまく行っているクラスの取組みを他のクラスに展開しよう、学年全体で取組もう」という取組みが生まれてきました。

こうして、CSの数値を目標管理として導入したことを契機に、数値そのものに対するアレルギーが薄れ、皆のやる気が高まっていくなかで「管理会計」を導入したので、うまく呑み込んでくれました。

いまでは、3年目、4年目の若い教職員が、「今月の売上は幾ら、経費は各部署で幾ら、時間外に関する費用が幾らなので、時間当たり採算がこうです」と会議の中で発言します。

ともすると、教育業界では予算配分を要求する局面を除いては、お金の話を避けて通ることも多いように感じていますが、古くは本多静六先生(帝国大学農学部教授)も正面から論じられている問題です。こと公教育においては将来の納税者を育てるという意識は不可欠であろうと思います。

教員自身にも「自分たちの食い扶持は自分たちで稼がなければならない」という意識が、きちんと根付いてきて、さらに保護者の方々の気持ちがわかるようになってきたように思います。

一般的に学校法人の経営は、保護者の方々からの保育料と私学経営に投入されている税金で支えられていますが、お父様、お母様がどのような思いで社会で働き、給料を得ているのか、同じ感覚で理解できるようになったと思います。

教育産業にアメーバ経営を導入したメリットは、「皆が、自分がやっていることを経済的な側面から自分で考え、行動できるようなツールを得た」ということですね。少し前に「大抵抗」が生じていたことからすると、とても感動的なことです。

――管理会計が定着した先には、利益を上げていくことが目標になるかと思います。

(谷澤)学校法人においては、利益を上げることのみが目標であるべきとは思いません。とはいえ、資本主義体制のもとで赤字であるということは、新陳代謝を促されていることだと受け止めています。

また、学費を納入してくださる保護者と同様、教職員も社会の発展に寄与した分を所得の上昇という形で果実を得るものだとすれば、社会の発展に寄与できるような教育の実施を教職員にも求めることになります。

採用をする側から言えば、歯科衛生士も幼児教育も、ある程度の所得水準が見込めなければ、そこに集ってくる優秀な人材の数には限りがあるように思います。

教育こそが国の根幹であるならば、学校の運営を担う事業者としても優秀な人材を惹きつけられるだけの物心両面の充足を提供できる努力をしなければなりません。その意味で、利益は必要条件ではあるが十分条件ではない、といったところでしょうか。

さて、利益は売上に利益率を乗じたものですが、やまた幼稚園の場合はどのように考えるべきでしょうか。幼稚園から保育園への流れの中で、地域の幼稚園需要は最盛期に比べて半減しています。

仮に売上を維持しようとすれば、顧客単価を上げるしかありません。顧客単価を上げるには、付加価値を高めることが必要になります。

これは子どもの「入園前と卒園児の姿、ビフォアとアフターの姿をいかに変えるか」ということです。幼稚園での教育による子どもの変化を保護者に評価してもらい、満足していただければ、顧客単価を上げられます。もちろん、世帯所得や教育への可処分所得という意味では無制限に上げられるものでもありません。

次に利益率を上げるにはどうすべきか。顧客単価に限界があるとすれば、教科書的には、教員一人あたりが担当する子どもの人数を増やすことが必要になります。

なお、文科省の基準では、幼稚園は1クラス35名を基準とすることが学校開設や私学助成の基準にもなっていますが、現場感覚では3歳児クラスで1クラス35名編成はあまり現実的ではないなあと考えています。

この学校の維持発展に必要な売上高と利益率2つの掛け合わせのバランス、顧客単価と1クラスあたりの人数のバランスをどこでとるかの経営判断が求められていると言えるでしょう。

私たちは、横浜市都筑区のマーケット特性について市場調査を実施しました。もう6年前のデータになりますので現在そのまま当てはまるものではないですが、この地区には高所得や高学歴の保護者が一定数おり、時勢柄、英語教育に興味を持っている方が多いことがわかりました。そこで英語教育を実施することにしました。

そのために英語教育を担当する外国人教員を採用し、卒園までの毎日575日間、英語に取組むプログラムを設けました。Websiteを通じてイメージ訴求につとめていったのです。

おかげさまで、横浜市の港北ニュータウンや東急田園都市線、東横線近辺のエリアでは、「英語教育なら、やまた幼稚園」というブランディングが確立されつつあります。

実際に、ケンブリッジ英検では、聞く、話す、といった項目のスコアが読む、書くというスコアより高いなど、従来型の日本型の教育とは異なる結果を残せています。これをさらに強化し、付加価値を高めていきたいですね。

さらには、文部科学省が推薦し、2018年7月現在で22校しか認定を受けていない教育プログラム「国際バカロレア(PYP)」の認定校を目指す候補校となりました。

国際バカロレアは、10の学習者像を掲げていますが、私たちは、自分で考え行動する、といったこれまでやまた幼稚園の園児像を発展させるものと捉えています。

単に語学が堪能であるにとどまらない、国際的な視野を持つ人材の育成を目指すものです。探究心や思考力、コミュニケーション能力、信念や思いやりなど、将来、国際的にも通用する資質を備えた園児を育てる幼稚園になっていきたいのです。

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東京の都心部ではなく、横浜や川崎という周辺部からの挑戦

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