「遺伝性のがん」よりも「後天的な遺伝子の傷」
がんは遺伝子が原因だというと、「親から子へと遺伝される病気なのか?」と思うかもしれません。確かに「遺伝性のがん」もあります。でも、その割合は決して多くはありません。
「家族性のがん」といわれるもので、がん全体の5パーセントほどです。だから、多くは、親からの遺伝とは関係なく起こる後天的な遺伝子の傷が原因なのです。
がんは、生活習慣病ともいわれています。
それはなぜかというと、遺伝子に傷がつく、あるいは傷ついた遺伝子を修復する力が低下するのには、生活習慣が大きく関係していると考えられるからです。
がんになるリスクを上げる生活習慣は、複数わかっています。
第一が、タバコ。タバコを吸う人は、吸わない人に比べて1.5倍がんになりやすく、男性で2倍、女性で1.6倍もがんによる死亡のリスクが高まるといわれています。
多量の飲酒も、がんのリスクファクターです。特に、口腔がん、咽頭がん、食道がん、男性の大腸がん、女性の乳がんのリスクを上げることは「確実」といわれています。
このほか、塩分の摂りすぎや野菜.果物不足などの食事の偏り、運動不足、肥満も、がんのリスクを上げる要因です。
ちなみに、日本人のがんのうち、男性では約半数、女性の3割程度は、こうした生活習慣を見直すことで「予防可能」という研究報告もあります。
また、生活習慣病の代表である糖尿病との関連も、よく指摘されます。糖尿病といえば、病気が悪化すると目が悪くなったり、腎臓が悪くなったり、脳卒中や心筋梗塞などを引き起こしたりすることがよく知られていますよね。ところが、それだけではなく、糖尿病の人はがんにもなりやすいのです。
人間はがんになりやすい動物
がんは生活習慣を改善することで、リスクを減らすことは可能。ただし、「絶対にがんにならないようにする」ことは残念ながら不可能です。
実は、人間というのは、そもそもがんになりやすい動物なのです。
人間ががんで死ぬ割合はどのくらいか、知っていますか? 日本人の場合、現在、3人に1人ががんで亡くなっています。
一方、チンパンジーや猿はどうでしょう? 人間とチンパンジーの遺伝子は、99パーセント以上共通しているといわれています。
違うのは、たったの1パーセントだけ。だったら、同じくらいの割合で、がんによる死亡がありそうですよね。ところが実際は、2パーセント以下です。
では、犬や猫はどうでしょう? 答えは、もっと低いそうです。魚に至っては、もっともっと低くて、0.1パーセント未満です。
地球上にいるさまざまな生き物のなかで、人間というのは最もがんになりやすく、がんで死ぬ確率が高い生き物なのです。
実は、一番古いがんというのは、1億5000万年前の恐竜の骨の化石から見つかっています。恐竜にもがんがあったということ。がんは、随分と古くからある病気なのです。
そして、人間がチンパンジーから枝分かれしたのが、700万年前といわれていますが、その過程で精子が増殖する仕組みを手に入れたことと、その後、人類が進化するなかで脳が巨大化したことが、人間ががんになりやすいことと深く関係しています。
まず一つ目の精子のこと。チンパンジーから人間になるにあたって、精子を作る遺伝子は大きく変わったそうです。
チンパンジーの場合、メスが発情期にお尻を真っ赤に膨らませて「今ですよー」と知らせます。オスは、その期間に対応すればいいので、常に精子を作り続ける必要はありません。
ところが人間には、そんな繁殖の時期を知らせるサインなんてありませんよね。だから、いつでも繁殖行為ができるように、精子を作る遺伝子が変化して、絶えず増殖するという特別な仕組みを手に入れたのです。
これが、実はがんが増殖する仕組みにとてもよく似ています。つまり、精子を作り続けられるように遺伝子が進化したことは、がんに増殖する力を与えてしまったというわけです。