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「売上目標は無意味」を証明してしまった女性経営者

中村朱美(佰食屋:ひゃくしょくや)

2019年08月05日 公開 2024年12月16日 更新

中村朱美

売上目標なんてじゃま

従業員が売上から解き放たれたことで、佰食屋には、従業員発信のさまざまな改善が生まれました。そして、そのアイデアは、「売上を上げること」よりはるかに高次元の「お客様の満足度」を引き上げるアイデアでした。

佰食屋の売上の40%はたった一人の従業員がきっかけだった

西院店の近くには、外国人向けの日本語学校があり、あるとき、その学生が来店してくれました。その学生はどうやら韓国の方で、言葉の通じないわたしたちに、英語と日本語、身振り手振りでオーダーしてくれました。
そのとき、のちに店長となるYさんがおもむろに携帯で検索をはじめました。「韓国語で話しかければ喜んでもらえるのではないか」と思ったのでしょう。

そして「マシッケ トゥセヨ(ごゆっくりどうぞ)」とステーキ丼をお持ちすると、とても喜んでくださいました。そしてしばらくしてまた、ステーキ丼を食べにきてくださったのです。

これをきっかけに、Yさんを中心に外国語の勉強会がはじまりました。英語に、中国語に、韓国語。「みんなが4か国語でステーキ丼の説明ができるようになること」を目指しました。それに合わせて、メニューも4か国語対応につくり変えたのです。

いまでは3店舗どのお店でも、4か国語対応のメニューを使い、外国の方をご案内できる従業員がいます。そのおかげで、全体の40%近くが海外からのお客様です。

いまや佰食屋を大きく支える海外からの観光客を呼び込んでくれたのは、いち従業員からはじまった、「目の前のお客様のための行動」がきっかけだったのです。

働くなかで、「本当はこうしたほうが効率がいいのに」「この工程は無意味なのでは?」と違和感を持つことはたくさんあると思います。

でも、心に余裕がなければ、多くの人は与えられた業務をこなし、ギリギリに設定された目標値をクリアすることに精一杯です。「そう決まっているからしかたない」と受け流してしまうでしょう。

その小さなモヤモヤが、長い目で見たとき、仕事の効率を下げ、作業の妨げとなってきます。できるだけみんなが楽しく、ストレスなく働くために、目の前のお客様に喜んでもらうために、「売上目標」はじゃまなのです。

佰食屋では、従業員が「お客さんが来ない。どうしよう」と不安になることはありませんし、「メルマガでなにかお得なお知らせを書かなきゃ」「映える写真をアップしなきゃ」と悩むこともありません。

「どうしたら、もっといいお店になるだろう?」「どうしたら、お客様に喜んでもらえるだろう?」と考えるところからスタートできるのです。
佰食屋のメニューがいまのように4か国語対応になったのも、そこが始まりでした。

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