なぜ飲食業界はブラックなのか
国税局の発表する「民間給与実態統計調査」(2017)によると、業種別の平均年収で「宿泊業・飲食サービス業」はもっとも低い253万円でした。
人手不足で、その穴を埋めるために過重労働を強いられる。それにもかかわらず、働いても働いても賃金が上がらず、長時間労働で疲弊していく―。
これが、飲食業界の現実です。なんとか売上を上げて、利益を確保するにはどうするべきか。ここで多くの経営者はこう考えます。
「利益率の高い『お酒』をたくさん売って、儲けよう」。
お酒を売るには、夜間営業が不可欠です。夜は人によって食べる時間も飲む時間もまちまちで、営業時間が長くなります。
そして次にこう考えます。
「同じだけ家賃やテナント料を払うなら、なるべく長い時間営業して、できるかぎり商売をしよう」。
ランチ営業、さらには朝食営業まではじめ、結果、年中無休や24時間営業の店舗が生まれていきます。
そうやって、朝から深夜まで通し勤務、土日祝もお盆も年末年始も休めなくなる。こんなブラックな状況が、まだまだ一部の飲食店では根強く残っています。休みの日、子どもと一緒に遊園地へ出かけたり、運動会や授業参観に参加したり……そんなことは夢物語です。
営業時間ではなく売れた数を区切りにする
佰食屋とほかの飲食店の働き方の大きな違い。それは、佰食屋では「営業時間」ではなく「売れた数」を区切りにしていることです。
通常の飲食店の場合、労働の区切りは「時間」です。特に忙しい日になると、「もう13時なのに今日はお客様が途切れそうにない」「閉店も近いのにお客様がまだこんなにいる。まだこれから明日の仕込みがあるのに」と、従業員は心のどこかでうんざりしてしまうでしょう。
反対に、100食という「売る数の上限」を決めている佰食屋では、お客様が多い日=忙しくない日になります。
なぜかというと、お客様が早くに集まるぶん、整理券を早く配り終えることができて、自動的に営業時間中は厨房と接客に専念できるようになるからです。せっかくお越しいただいたお客様の姿を見て、マイナスな気分が生まれることはありません。
多くのお店は、土日や連休に従業員を確保することに、とても苦労していると聞きます。ゴールデンウィークなんてもってのほか。どんなに忙しく働いても時給が上がるわけではありませんし、同じ給料をもらって働くなら、なるべく暇なときのほうがいい。むしろ、そう考えるのが普通の感覚、ではないでしょうか。
けれども佰食屋では不思議なことに、みんな土日や祝日にシフトを入れたがります。「売れた数」を労働の区切りにしているため、土日祝日だからといって、「いつもより忙しい」とか「営業時間が延びる」ことが絶対にないからです。正社員から、「平日休みの方がいいんです!」と言われたことさえあります。
つまり「早く帰れる」はお金と同じくらい魅力的なインセンティブ
ただ佰食屋だって、正社員は、土日祝日だからといって給料が上がるわけではありません。でもみんな、こぞって働きたがる。それはつまり、「早く帰れる」ことはお金と同じくらい魅力的なインセンティブだ、ということでしょう。
「まだ空が明るいうちに仕事を終える」のが、どんなに嬉しいことか、そして、どんなに難しいことか。「早く帰れる」ことが、なぜそんなにモチベーションになるのか。残業が当たり前の企業や、長時間労働が常態化している飲食店に勤めたことのある人なら、おわかりいただけると思います。
佰食屋に勤める従業員たちは、少なからずそういった環境で働いた経験のある人ばかりです。佰食屋に入社して、早く帰れるようになって、みんなの人生が変わりました。
入社してから彼女ができて、結婚して子どもができて、育休をとった男性社員がいます。仕事が終わってから、婚活パーティーに行く人もいます。「親に子どもの送り迎えを頼まなくてもよくなった」と喜ぶ人、自分のやりたいことと仕事を両立させ、DJ活動をしている人までいます。
従業員にとって、「自分の好きなことに使える時間が必ずとれること」そして、「会社が必ずそれを認めてくれること」は、日々の暮らしを成り立たせる、とても価値ある安心材料なのです。
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丁寧に暮らしたい。でも、物理的な時間はどこにある?