次々と新たな研究成果が発表され、日々アップデートが進む脳科学の世界。米国を中心に数十~数百億円もの大規模投資をする企業も現れる一方、実験結果を都合よく解釈した内容がメディアで拡散され、ともすれば胡散臭さが漂う場面も少なくない。
この分野の実社会への応用について、最前線をひた走る一人が、NTTデータ経営研究所の茨木拓也氏だ。
「脳科学の応用」というテーマで100件を優に超えるプロジェクトを手掛けてきた同氏は、脳科学の知見は「ビジネスの現場で役に立ったり、新たな事業のタネになることばかり」だと語る。
ここでは茨木氏の著書より、ビジネスをはじめとする現実社会でいかに脳科学が応用されうるか、その可能性に迫る一節を紹介する。
※本稿は茨木拓也著『ニューロテクノロジー ~最新脳科学が未来のビジネスを生み出す』(技術評論社刊)より一部抜粋・編集したものです。
あらゆるビジネス課題には、脳の情報処理が関係してくる
「感性や感情は脳波ですべてわかっちゃうんでしょ?」
「私の子どもには○○という教育法を施しているけど、それって正しいの?」
「脳科学って、ヒトを洗脳する悪どい科学者たちの胡散臭い学問なんじゃないの?」
「脳科学の応用を仕事にしている」と人に言うと、高頻度でこのようなことを聞かれます。知的好奇心をくすぐる脳のトリビアや過剰な期待、そして拒否感など、「脳科学」や「ニューロテクノロジー」という言葉に対する反応は人によってさまざまです。
私は「いかに現実社会のビジネスに役に立つか?」という点でこの分野にもっと注目が集まってほしいと考えています。基礎科学の世界で成し遂げられた脳に関する興味深い発見や技術は、まちがいなくビジネスの現場で役に立ったり、新たな事業のタネになることばかりです。
「どんな製品にすれば魅力的に思われるか?」
「どんな広告をつくれば人が買ってくれるのか?」
「どんなふうにスキルを身につければいいのか?」
「もっと頭がよくなったり、アイディアを出せるようになりたい!」
私たちが日々ぶちあたるこういう悩みや願望の種は、じつはすべて脳の情報処理にひもづくものです。私たちの脳が、複雑な製品やサービスの情報を、感覚器官を通して認識し、その価値を学習して記憶し、極めて多量の選択肢の中から意思決定をするなど、高度な情報処理を担っているのです。
このような、人間の"知的な情報処理〞の背景にある計算基盤や情報表現、計算原理を科学的に解き明かそうというのが「脳科学」という学問であり、その技術的応用分野が「ニューロテクノロジー」です。
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