“死と隣り合わせ”の⽇本の学校…ニッポンの教育が沈みかけている「5つの理由」
2020年06月10日 公開
教師の仕事は「死と隣り合わせ」
実は、Sさんのように、理想や夢があって教師となったにもかかわらず、若くして命を絶ってしまうことは、決して少なくありません。NHKニュース(2016年12月23日)によると、ここ10年の間に少なくとも新人教員の20人が自殺しています。
多くの学校が子どもたちの「夢を育む」「命を大切にする心、他者への思いやりを育む」「希望する進路を実現する」などと学校目標等で謳っているにもかかわらず、教職員については、夢や希望とは正反対の現実、「死と隣り合わせの現場」があるのです。
さらに、こうした事案は全国のどこの学校で起きても、なんら不思議ではありません。文部科学省「教員勤務実態調査」(2016年実施)によると、いわゆる「過労死ライン」超え(過労死等のリスクが非常に高い状態)で働いている先生は、小中学校で6~7割前後にも上る可能性が示されています。
くわえて、うつ病などで休職を余儀なくされている先生は毎年5000人もいます。実際、この10~20年、教師の過労死、過労自殺はあとを絶ちません。
むやみに危機感を煽りたいわけではありませんが、新人教師の仕事のハードさや職場等でのサポート・育成の不足、そして新任に限らず教師を取り巻く過酷な環境は、Sさんのときよりも、いまはもっとひどい状態になっている学校もあるのではないかと予想できます。もうこれ以上、私たちは尊い命が失われることを繰り返してはいけません。
いま、先生たちの身に何が起きているのか?
Sさんの事例だけではありません。近年、「教師」「先生」にまつわる問題が多数起こっています。2019年に判明した、神戸市の小学校での教員間暴力事件。激辛カレーを強要するシーンを鮮明に覚えている方も多いでしょう。
報道を見て、「日本の学校現場は大丈夫か?」「どうしてあんな人材が採用され、教壇に立っていたのか?」。そう思われた方も少なくないと思います。
あのような卑劣な事件は稀ですが、毎週のように学校、教師の不祥事や問題は報道されています。そして、教員間のハラスメントに加えて、教員の養成、採用上の課題、さらに授業の質や子どもたちへのケアに関して、問題や不安材料は山積みで、一刻の猶予もない状況であることも確かです。
もはや「学級崩壊」のレベルではなく、「教師崩壊」「教育崩壊」とも言うべき現実があるのです。
しかし、誤解してほしくない点がひとつあります。それは、教師の不祥事や事件の背景には、教師個人の力だけではどうにもできない構造的な問題があるということです。
「子どものため」を建前に、人を増やさないまま仕事と責任を増やし続けてきたこと、あるいは都合の悪いことから目を背ける学校組織や行政の体質などが挙げられます。
このままでは、教師や学校の現場が危険なのはもちろん、子どもたちや保護者、ひいては日本の未来が危うい。そこで私は、こうした教師が置かれている危機的状況を、「ティーチャーズ・クライシス」と題して、自著『教師崩壊』の中で解説しています。