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誤解だらけの「男性育休義務化」…“義務化”の知られざる本当の意味

小室淑恵

2020年10月19日 公開 2024年12月16日 更新

誤解だらけの「男性育休義務化」…“義務化”の知られざる本当の意味

義務化の是非が話題の男性の育休。しかし、国が検討している「男性育休義務化」の「義務」は取得義務ではないことは意外と知られていない。

本稿では、『男性の育休家族・企業・経済はこう変わる』(PHP新書、小室淑恵・天野妙の共著)から、内容を抜粋してお届けする。

 

義務化は少子化対策を加速させるため

筆者は天野妙氏とともに、「男性の育休『義務化』を目指す議員連盟」の民間アドバイザーを務めています。

この議員連盟が提唱する「義務化」は、「企業には、育休取得対象者に対して、取得する権利があることを必ず説明する義務がある」という制度を指します。

コロナ禍が社会の変革を促進したこともあり、おそらく今後5年以内に、男性育休が取れないような企業は、新卒男性に見向きもされなくなります。ですから放っておいても、男性の育休取得は進む傾向にあるのですが、問題はスピードなのです。

実は、今のままの出生率では、2110年に日本の人口は現在の4割になり、高齢化率がなんと41%になってしまいます。財政破綻にむかってフリーフォールを落ちているところといった状態でしょうか。しかし、もし今すぐ出生率が2・07に改善すると、2100年に人口は現在の6~7割程度で下げ止まります。

さらに、団塊ジュニアのボリュームゾーンの年齢が40代後半に入ってきている今、一年ごとに出産できる女性の人数が激減するのですから、1分1秒でも早く解決しなければ、次世代の子どもたちに破綻した日本を残すことになるのです。

『男性の育休家族・企業・経済はこう変わる』(PHP新書)で詳しく解説していますが、人事部も男性に育休を取らせたい、定時で帰らせたいと思っている。経営者も反対していない。国も少子化対策に有効だと分かっている。

でも「取る・取らないは完全に個人に任されています」では、どんな不遇が待っているか分からない中で個人からは声が上げにくいのです。そのうちに、どんどん少子化は進行して日本の未来は沈んでいきます。

しかしここで、企業に対して「育休の対象となる男性に取得を打診することは企業の義務です」と法律で定めれば、企業の側から声がけをする構図になり、今までの膠着状態から抜け出せる可能性があるのです。

男性の育児支援を日本で最も長くやってきた歴史を持つNPO法人ファザーリング・ジャパンは、各社に働きかけて「イクボス宣言」を集めています。

その中で顕著なのが、一つの業界で男性育休取得率が上がると、その業界では競い合うように取得率が上がり、取得率の伸びが急加速するということです。男性同士は、どうしても同調圧力が強い傾向にありますが、それを良い方向の競い合いに転じさせるような社会的な仕掛けが必要なのです。

 

義務化は、誰への義務なのか

「男性育休義務化」議論は、当初SNSで大炎上しました。「義務って、どういうこと?」「取りたくない男性も絶対に取得しないといけないの?」と。

これは、多少狙った効果ではありましたが、誤解です。あくまでも「義務化」の対象は企業であり、「企業には、育休取得対象者に対して、取得する権利があることを必ず説明する義務がある」ということです。

男性が育休を取得しなかった理由を調査すると、必ず上位にあがってくる「制度がない」という誤解も、企業が制度を周知することが義務付けられるようになれば起こりません。

また、「義務化」は永久的なものではなく、期限付きの措置として想定しています。つまり、時限立法です。時限立法とは、期限付きの法律を指し、2015年に施行された女性活躍推進法や2003年に施行された次世代育成支援対策推進法(通称:次世代法)も時限立法です。

時限立法の良いところは、法制化までの決断を早めることができ、目標数値に届かなければ、延長することもできる柔軟性にあります。

「義務化」という言葉を使うかどうか、筆者たちが迷っていた際に、使うべきだと力説したのは、実は議連発起人の和田義明衆議院議員と松川るい参議院議員でした。松川議員は共働きで子育て当事者、和田議員は商社出身の一児の父です。

2019年の4月に初めて筆者たちが両議員とミーティングした際に「義務化ぐらいしないと、本当に男性が育児参画できる社会は作れないと思う」ときっぱり言われ、私たち以上に前のめりな姿勢に驚いたのを覚えています。

そこから、たった1カ月で「男性の育休『義務化』を目指す議員連盟」が立ち上がり、同年6月には安倍総理に提言、11月末には、法改正につながる具体的な議論のフェーズである「育休のあり方検討PT(プロジェクトチーム)」が発足。筆者たちも想定していなかったスピードで「男性育休義務化」に向かって議論が進んでいることに、驚きを隠せません。

国は2020年の「少子化社会対策大綱」で2025年までに男性育休取得率を30%に引き上げることを目標にしています。「2020年までに13%」と設定していた、以前の目標を大きく上回る数値です。

その姿勢は素晴らしいのですが、今までの延長線上の施策では目標数値には到達しないでしょう。到達するためには何をするべきか、『男性の育休家族・企業・経済はこう変わる』(PHP新書)で詳しく解説していますので、興味のあるかたはぜひお手に取ってみてください。

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