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コロナのせいだけじゃない…「いつも不安な人」が増えた納得の理由

加藤諦三(早稲田大学名誉教授、元ハーヴァード大学ライシャワー研究所客員研究員)

2021年09月13日 公開 2024年12月16日 更新

コロナのせいだけじゃない…「いつも不安な人」が増えた納得の理由

人はどうして不安になってしまうのか。長引くコロナ禍で今まで以上に不安に苛まれる人が増えている。

早稲田大学名誉教授の加藤諦三氏は、この原因は共同体の崩壊と消費社会の進行にあると明かす。加藤氏の著書『誰にもわかってもらえない不安のしずめ方』では、不幸に陥る理由や対処法について語る。

現代社会において、誰もが抱く不安。その上手な付き合い方とは。

※本稿は、加藤諦三 著『誰にもわかってもらえない不安のしずめ方』(PHP研究所)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

人はなぜ、不安に苦しむようになったのか

長い人類の歴史を考えてみると──新型コロナウイルスの問題が起こるはるか以前の頃──もともと人間が不安に苦しみだしたのは、共同体の崩壊が始まったからでした。

かつて共同体が崩壊し、人類の歴史は共同体から機能集団の歴史になりました。機能集団とは何かといえば、例えば会社などの組織です。一方、共同体というのは家庭などです。

かつては共同体に属してさえいれば、「君は君だから生きている意味がある、価値がある」というように、人間はそこにいること自体に意味が持てました。

ところが、機能集団というのは共同体とはまったく違い、そこにいるだけでは価値や意味を持てません。

例えば、会社の部長が「俺は俺だから意味がある」と言って、部長の役割をしなければどうなるでしょう。会社が潰れてしまうかもしれません。その人が集団の中で求められている役割を果たさなければ、その人は必要とされずに「はい、向こうに行ってください」となるはずです。

社会は共同体から機能集団になりましたが、この流れ自体が、我々にとって不安な時代に入ったことを意味しています。

さらに、現代について考えてみると、消費社会と競争社会へと社会は変化してきました。実はこのことが、我々の不安をより強いものにしているのです。

競争社会とそうではない社会とでは、我々が感じる不安はまったく違います。競争社会は、勝つか負けるかという社会です。不安な人はどうしても勝とうとするので、結局勝っても負けても、とにかく不安から逃れられないようにできています。

また消費社会も同様に社会全体として、人を強い不安に陥れます。

例えば、消費社会は「これを買えば、こんないいことがありますよ」という商品をどんどん売る社会です。このクリームをつけたら「十歳若返ります」「きれいなお肌になります」「このハンドバッグ持ったらすてきに見えますよ」といった具合に商品を売りつけます。

要するに、消費社会は「安易な解決を可能にする商品を競って売る社会」なのです。

 

簡単に解決できない問題を、お手軽に解決しながら生きていく現代人

例えば、人生の課題の一つにナルシシズムがあります。人は誰もがナルシシズムを持って生まれてきます。生きていく過程で、そのナルシシズムを昇華し、克服して、そうやって我々は一つひとつ成長していくわけです。

人間が成長していくためには、その時期、その時期でどうしても解決しなければならない課題があります。成長していくに従って、このナルシシズムを解消して、だんだん精神的に成長して心の支えを築いていくのもその一つです。人間はこうした成長と退行の葛藤の中で生きているのです。ちなみに退行の問題としては、ナルシシズムの他に母親固着といった問題があります。

本来、我々は日々、様々なつらいことを経験して、頑張って、我慢して、そしてそれぞれの人生の課題を解決しながら一歩一歩生きていき、ようやく幸せにたどり着いていくのです。

ところが、ナルシシズムのような人生の課題を満足させる商品というものが、世の中にはたくさんあります。「このバッグを持ったら、すてきですよ」など、まさにナルシシズムを満たしてくれる商品の一つです。

要するに消費社会というのは、本来、人間の成長と退行の葛藤の中で乗り越えていくべき退行願望を、我慢や苦労なしで安易に満たしてしまう社会なのです。

そのため、一時的には苦しい成長に直面しないで生きていける社会ではあるのですが、本来人生の過程で遂げるべき成長がないため、結局、最後には人生に行き詰まります。

たしかに、退行やナルシシズムを無理に乗り越えなくても生きていける社会であれば、それはそれでいいのではないか、という考えもあるでしょう。

しかし、歳を重ねてある年齢に達し、そこで自分の人生を振り返った時に、本当に心から触れ合える人が誰もいなかったことに初めて気がつくとしたら、これほど寂しいことはありません。

それにもかかわらず、消費社会は「そういう生き方が一番いいですよ」ということをすすめているのです。

もう一つ別の話でいうなら、親からの自立、つまり「オイディプス・コンプレクス」の克服があります。これは、フロイトが「人類普遍の課題である」と述べたほどの人生の課題です。当然、簡単に解決できるはずのないものです。

ところが消費社会では、そうした課題に対しても、「ここに行けば解決する」「この本を読めば解決する」という情報が売られています。真の成長が得られない解決法が、「これで解決できる」と言って売られているのです。

本来、人生の充足というのは、そのように簡単には解決できない、人生における不可避的な課題が、次から次へとたくさんあって、それらを解決しながら何とか成長することで、その結果、ようやく手に入るものです。成長と退行の葛藤の中で生きていくことには、ものすごい負担とリスクが伴うのです。

一方で、そうした負担とリスクを負わずに生きていくこともできますし、今の社会はその方法も教えてくれます。ただしその場合、人生に必要な成長を遂げていないので、最終的には行き詰まることになります。

だから今、誰もが不安なのです。

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「不安だ」と口にする人が、真っ先にすべきこと

著者紹介

加藤諦三(かとう・たいぞう)

早稲田大学名誉教授、元ハーヴァード大学ライシャワー研究所客員研究員

1938年、東京生まれ。東京大学教養学部教養学科を経て、同大学院社会学研究科修士課程を修了。1973年以来、度々、ハーヴァード大学研究員を務める。現在、早稲田大学名誉教授、日本精神衛生学会顧問、ニッポン放送系列ラジオ番組「テレフォン人生相談」は半世紀ものあいだレギュラーパーソナリティを務める。

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