今いる「地獄」から自分の意思で出て行く
肉体的に虐待されて成長した人は、確かに過酷な人生であるが、過酷な人生を生きたのは、そういう人たちだけではない。
生まれて以後、常に、「お前は生きる価値がない」という破壊的メッセージを絶えず与え続けられた人も、過酷な人生である。
そういう人もまた、地獄の試練を経なければ「私は生きるに値する」と思えない。
レジリエンスを育成できなかった人は、よい愛が存在するか否か以前に「よい愛とは何であるか」ということを、想像できなかったのではないだろうか。
地獄に生まれ、地獄で成長した人は、地獄以外の世界を想像できない。
肉体的にとことん虐待されて成長した人もいれば、地獄を天国と思い込まされて、心理的に破綻したままで成長した人もいる。
それにもかかわらず、どのような人生であれ、人は幸せになれる。もし、今いる世界から、抜け出すことが出来れば。
心が今の絶望の世界から抜け出すことである。過去の自分の人生はあまりにも辛かった。そして心は破滅してしまった。その腐った肉をあさるハイエナが集まった状態が今なのだ。
自らの悲劇を対象化する。小説でも、絵画でも、何でもよい。創造的不適応といわれる生き方が可能であれば、それに打ち込む。その時にも、信頼する仲間がいる。とにかく人の結びつきが大切である。
虐待された家庭でも、レジリエンスのある人は家庭の外に信頼する仲間を作る。それが救いとなる。
恐れることなく真実に向き合うことだ。
【著者紹介】加藤諦三(かとう・たいぞう)
1938年、東京生まれ。東京大学教養学部教養学科を経て、同大学院社会学研究科修士課程を修了。1973年以来、度々、ハーヴァード大学研究員を務める。現在、早稲田大学名誉教授、日本精神衛生学会顧問、ニッポン放送系列ラジオ番組「テレフォン人生相談」は半世紀ものあいだレギュラーパーソナリティを務める。