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どんなに寂しく苦しくても気持ちが変わる...作家・伊藤比呂美の「究極のおすすめ」

伊藤比呂美(詩人・作家)

2022年03月10日 公開 2022年08月10日 更新

どんなに寂しく苦しくても気持ちが変わる...作家・伊藤比呂美の「究極のおすすめ」


※写真はイメージです

不安なとき、苦しいとき。晴れない気持ちを抱えたまま過ごす時間の憂鬱さは本当につらいもの。できることなら、すぐにでもリセットしたいけど…。本稿では、生き方を考える月刊誌『PHP』で、詩人で作家の伊藤比呂美さんが語った「心の切り替え方」を紹介します。

※本稿は人生の応援誌『PHP』 2022年1月号より抜粋・編集したものです。

 

傷口に絆創膏を貼るのと同じように、笑いには、苦しみにふたをする効能があります。

辛いことや苦しいことがあって心が鬱々としているときに、楽しそうな顔をしろなどをいうのがそもそも間違ってると思います。

そういうときはほんとに辛くて苦しいんだから、辛そうな苦しそうな暗い顔をしていればいいわけで、ほっといてあげましょうよと思うんですけれども、なにしろ今回編集部(注:月刊誌『PHP』編集部)に「つらいことを、おもしろくする習慣について書いてください」と言われたものですから考えております。

課せられたことをどこまでも真面目に考え抜く。こういう悪い性格で生きているから、ときに笑うことができなくなるわけで。

 

心のトゲを取り除こうとして

わたしは今でこそ老年に近づき、というかほとんどなり、更年期という激動の時期もだいぶ前にすぎて、さっぱりして生きていますが、35とか40とかの頃は、辛くて苦しいことの方が多かった。

原因不明でただうつになる人もいるということですが、わたしの場合、原因は大ありだったんです。家庭の不和とか恋愛の不調とか自分への不信感とか子育ての苦労とか介護の不安とかお金の問題とか。取り除くことのできないことばかりでした。

心の風邪などと言いますが、むしろ心にささったトゲですから、もう、痛くてたまらない。心だから見えないが、手足の傷なら、血まみれですごいことになってるだろうなどと考えながら、一日じゅううつむいて息もせずに生きていたかったです。

あの頃はしょっちゅう、東京、巣鴨のとげ抜き地蔵に行っていました。いえ、信仰というほどのものはなく、なんとなく、母も祖母もそうやって通っていたから自分もやっとくかみたいな心持ちでふらりと行ってお線香をあげて、その煙で悪いところをさするといいと言われて育ったものだから、つねに苦しい胸の辺りを自分でさすってみた。

しょっちゅう通ってましたから、効き目があったのかもしれません。なかったのを証明するより、効き目はあったと信じた方が早いと思うんです。

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笑うだけで、苦しみが一瞬なくなる

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