あなたが生きづらいのは、幼少期に「自立心の芽」を摘み取られたから
自分が変わることを恐れず決断すること
人間は変わる権利がある。このことは実にたいせつなことである。
世の親はたいてい自分の子どもが社会的に成長していくことを喜ぶ。なかには自分の子どもの社会的出世だけが生きがいになる親さえもいる。
しかし、自分の子どもの精神的成長を喜べる親は実に少ない。子どもは変わるのである。小さいころ親を必要としていたようには、大きくなって親を必要とはしない。それが正常な成長なのである。
小さいころの親と子の結びつきは、弱さからの結びつきである。しかし成長してからの結びつきは、強さからの結びつきに変化しなければならない。
弱さからの結びつきとは、一人でいるのがさびしいから、頼りないから、お互いによりかかりあって生きていくことである。強さからの結びつきは一人でも生きていかれるが、より人生を充実するために結びつくことである。
ところが親が情緒的に未成熟なときは、その子どもの変化を認められない。そして「昔はあいつも良い子だったが」と嘆いたりする。
あるいは「どうせ子どもは自分から離れていくのだから」とはじめから子どもに精神的にコミットしていかない親もいる。絶望がこわいから希望を持たないというのは弱い精神である。たえず何かを恐れている精神である。
そしてそういう弱い人々に囲まれた子どもは、自分が変わることを恐れる。自分が変わることで周囲の期待を裏切るからである。
自分が変わっていくのが何か悪いことででもあるかのように感じる。これは親子関係ばかりではない。仲間との関係でも同じである。
自分が変わっていくとき、何か仲間を裏切っていくようにさえ感じる。ことに弱さで結びついている仲間同士にあってはそうである。しかし人間は変わる権利がある。
この権利の自覚は、弱い精神に囲まれている人間にはたいせつである。変わる権利があるという確信のないものが、他人の反応を恐れる。
人間は一つ一つ自分の殻を破っていく以外に成長していきようがない。いつまでも一つの殻のなかに閉じこもっている人間はいつも不愉快そうな顔をしている。
自分の殻が自分に適さなくなったとき、その殻を破る勇気のない人は、いつも重苦しい生を生きるより仕方がないのである。
【著者紹介】加藤諦三(かとう・たいぞう)
1938年、東京生まれ。東京大学教養学部教養学科を経て、同大学院社会学研究科修士課程を修了。1973年以来、度々、ハーヴァード大学研究員を務める。現在、早稲田大学名誉教授、日本精神衛生学会顧問、ニッポン放送系列ラジオ番組「テレフォン人生相談」は半世紀ものあいだレギュラーパーソナリティを務める。