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社会福祉事業の経営強化へ。生産性向上で社員の幸福度が高まる「合掌苑」

森一成(社会福祉法人合掌苑理事長)

2019年08月27日 公開

 

経営感覚が身に付いた介護士は、精神的にも楽になる

――さらに、アメーバ経営の実践について教えてください。話し合いの場であるアメーバ経営会議ではどのようなことをやられているのですか?

森 会議には各アメーバのリーダーが参加し、1人3分ずつ持ち時間が与えられています。直近の月の、自らのアメーバの計画内容とそれを踏まえた実践の中身を話し、実績の数字を伝え、計画との差異について理由を分析して報告するのです。それを1日かけて、48のアメーバ、全部について行います。

ただしこのうち、発表の時間は1分。その後は、質問に対する回答の時間に費やします。もし発表だけで終わっていると、前月の発表の「焼き直し」をするリーダーが出てくる可能性があるのです。

しかし、質問されてそれに答えるということであれば、焼き直しは書けなくなります。その結果、リーダーとしての仕事の質が上がっていくのです。

――1つの発表に対して、3人か4人は必ず質問が来る形ですか?

森 そうです。質問については「参加者全員、1日1つは必ず行うように」と当初は強制していました。各アメーバに対する質問者をあらかじめ決めています。もちろん、それ以外で質問したい人は、どのアメーバに対しても質問することが可能です。

そのようにして出てきた質問については、リーダーに対して事前に全部、その内容を伝え、あらかじめ資料に纏めて渡してあります。そしてリーダーは会議までに回答を纏め、資料に記載せねばなりません。

その資料を参加者全員で共有しています。その結果、実際の会議の場では、回答に対しての振り返りを行い、さらに質問を重ねて議論を深めていくことをする形になるのです。

このようなことを繰り返した結果、リーダークラスは今では数字への意識が強くなり、「1日ベッドが空くといくら減収になる」「おむつは1枚XX円。ムダな使い方をしない」ということを常に頭に入れながら仕事をしてくれています。おかげで「おむつ代」だけで1年目に1,960万円、2年目に1,850万円の経費削減に成功しました。

――つまり48人のリーダーには、経営感覚が備わったということですか。

森 いえ、48人だけではありません。最近はほぼ1年ごとに、アメーバのリーダーを変えているので、もっと多いです。アメーバ経営を導入した最初のころは、役付きクラスの人間がリーダーをやっていたのですが、今はもう役付きクラスはほとんどおらず、入社3年目や4年目の社員がリーダーをやっているケースが多くなりました。そのような若手がリーダーを経験し、数字に強い人間がどんどん増えているのです。

介護の仕事は総合力が重要です。ある限られた人間だけが突出して数字に強くなっても、周りがそうならないと力が高まっていきません。それよりもチームの底上げが大事です。

できるだけ多くのメンバーに数字に強くなってもらう必要があるのです。ですから、リーダー経験者を今後もどんどん作っていきたいと思います。

――社会福祉事業に関わる皆さんが、数字に強くなれば、経営は強化されますね。

森 じつは、経営強化だけではない効果も生み出せます。個々の介護士にとっては、数字を意識して仕事ができるようになると、精神的にも楽になれるのです。

例えば、「入居者であるお年寄りの飲み込みをよくし、誤嚥性肺炎を少なくしよう」という取り組みを行いますが、入居者全員がよくなるわけではありません。

いかに口腔ケアを一生懸命したとしても、「Aさんは比較的よくなって入院をしなくなったが、Bさんはよくならず、結局、誤嚥性肺炎を起こして死亡してしまった」というケースが生じます。その結果、なかなか成果を感じられず、空しさが募るばかりという状況になってしまいます。

しかし、入院率で数字を出すと成果がはっきりと現れます。たしかに口腔ケアをきちんとやったほうが、入居者の、誤嚥性肺炎を原因とする入院率が下がるのです。それが見えれば、やりがいにつながると思います。だから、積極的に数字に関わらせてあげるべきなんです。

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有給休暇取得率100%で生産性を上げる

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