社会福祉事業の経営強化へ。生産性向上で社員の幸福度が高まる「合掌苑」
2019年08月27日 公開
有給休暇取得率100%で生産性を上げる
――ほかに、アメーバ経営の効果として挙げられることをお聞かせいただけますか。
森 そもそも私が、アメーバ経営で一番気に入ったのは、他の管理会計システムと比較して「利益」という言葉をそんなに重視していないと感じられたことです。勉強をしたときに一番衝撃だったのが「利益」と「人件費」があまり出てこないことでした。
普通の管理会計では必ず人件費を持ち出します。そうしないと利益が計算できませんから。そして、多くの経営者は人件費を削って利益を出そうとします。
一方、社員からみれば利益ほど意味が分かりにくいものはない。「どこかの誰かがピンハネして持っていってしまうお金」と誤解している人も多い。だから、「利益があるならボーナスを払え」という勘違いした主張をするのです。アメーバ経営においては、そのような誤解が生じないから、やりやすいですね。
――そもそも、「利益への捉われ」が生じないシステムなのですね。
森 肝心なのは「時間当たり採算制」ですから。そしてその数値を上げるのに一番いい方法は、労働時間を減らすことです。そして何よりも、総労働時間に有給休暇を含まない点が優れています。
私は、稲盛和夫さんは凄いと思う。これが生み出されたときは高度経済成長期です。長時間労働で、モノをたくさん作って売りまくることが是とされた時代です。
これに対して、労働生産性を軸にして経営を行った稲盛さんの先見性を尊敬します。そしていまだに日本は、労働生産性が低いと言われています。それを上げるのが、日本企業の本当に大きな課題だと思います。
――特にサービス業の労働生産性について、改善すべきところが多々あると感じています。合掌苑さんではどのような取り組みをされていますか?
森 われわれが社員に言っているのは「とにかく有給休暇を消化しなさい」ということです。休めば労働生産性が上がるのです。時間当たり採算制の計算では、分子が上がるより、分母が減るほうが、効果が大きくなりますから。とにかく有給休暇は取得率100%を目指しています。
介護業界では、「普段の休みも十分に取らせることができていないのに、そんなことは絶対無理」と言う人が結構いますが、われわれは10日以上、連続休暇を取ることを実行しています。年度初めに、社員全員に長期休暇の予定を出してもらい、それに則って動いています。4割ほどの社員が2週間の連続休暇を取得しています。
このような施策の結果、もしも仕事の量が減り、売り上げが下がったとしても、生産性が上がればよいと考えています。世の中一般は、いまだに売り上げ至上主義ですが、われわれは、売り上げ至上主義から早く脱却したいのです。
もちろん、売り上げが急に下がったり、シェアがどんどん縮小していくのはよいことではないので、できるだけキープはしたいのですが、生産性を無視して売り上げを上げても意味がないと認識しています。
ただ、業界的には「介護に生産性が重要」と言っても、まだまだちんぷんかんぷんです。「介護は何も生産していません」というようなことを言うぐらいですから。
――まずは、現場で働く皆さんが、生産性を意識することから始めなければなりません。
森 そうです。とにかく生産性は、現場の人たちの力がないと変えられないのです。個々人が明確に意識して、自らのこととして取り組むしかないのです。
そして、「何でもかんでも放り投げて早く帰ればいいんでしょう」とはならない、ということも大事です。お客様に喜ばれ、満足して頂けるからこそ、売り上げが上がっていくのです。
だから、「残業をするな」と言っているわけではありません。「お客様に必要であって、どうしてもそれをやりたいと思うなら残業しなさい」と言っています。
ただ、毎日毎日残業をするのではなく、残業の翌日は早く帰るということを心掛けてほしいですね。喜ばれるからといって、長時間労働になったら時間当たり採算は下がる。一人ひとりが深く考えて、バランスを意識して働くことが大切なのです。
――社会福祉業界においても、働き方を自分で設計していく時代なのですね。
森 われわれは、小さな子供を抱えたお母さんの社員に配慮し、働き方を多様にしています。時短勤務で働いている人も多くいます。そのことに対して、不満を言う人がいました。「なんで早く帰るんだ。自分たちは遅くまでやっているのに」と。
これに対して私はこう言います。「彼女たちは小さな子供を抱えながらも、わざわざ仕事に来てくれている。ありがたいと思い、感謝しなさい」と。
他人のできないことを問題視してお互いを非難するのではなく、できることを見てやってくれていることに感謝する。それがあればお互い助け合い、質の高い仕事を効率よくこなして生産性が上がり、幸せになる。私は、そのような仕事のやり方を、社会福祉業界に広めていきたいと考えています。