
営業・販売に携わる者であれば「売れない時期」は必ずと言っていいほど経験します。販売のプロである豊岡舞子さんも、かつてその暗闇に迷い込みました。
カリスマ販売員からベテランまで、多くの「売れる人」にスランプについて尋ねる中で、彼女は一つの共通点を見つけ出します。本稿では、豊岡さん著書『モノが飛ぶように売れる人の考え方』から、売れる人が実践するスランプとの向き合い方、そして気持ちを切り替えるためのヒントをご紹介します。
※本稿は、豊岡舞子著『モノが飛ぶように売れる人の考え方』(インプレス)より、内容を一部抜粋・編集したものです。
売れる人はスランプを気にしない
どれだけ売れる人にも、売れない時期があります。いわゆるスランプの期間です。あなたにも「必死に頑張ってもまったく売れない」という先の見えない苦しい経験に、身に覚えはあるでしょうか。
私もスランプに陥って、うまくいかなくなってしまった時期があります。何をしてもどうしても抜け出せませんでした。顔の表情は暗くなり、気持ちも非常につらくて毎日眠れないほどです。体にも不調が出てだるくて元気が出ず、本当に悲しい状態でした。
そのときにどうやって脱出すればいいのか、そのきっかけがほしかった私は、「売ることに関して、誰にでもスランプはあるのか?」という疑問を強く持ちました。その答えを求めて、これまでにさまざまな人にスランプについて尋ねてきました。カリスマ販売員、社歴の長いベテラン先輩社員、定年退職後にも会社と再契約するほど熟練の売れる人、年俸契約する凄腕の売れる人......。
どのような人に聞いても「スランプはある」という答えでした。おそらくスランプというのは、人間誰しもあるものなのでしょう。
バイオリズムのようなもので、例えばお笑い芸人さんでもずっと売れている時期もあれば、人気には波もあると思います。その人にとっての不調があり、調子が落ちてしまうタイミングもあります。
誰しも調子が落ちるときがあり、今までやってきたことを全部やってもうまくいかない。調子が良いときと同じ方法を全部やっているはずなのにうまくいかない時期もあるのでしょう。そのサイクルにハマってしまうと、やればやるほどにうまくいかない。まさに負のサイクルです。
売れる人は、スランプの時期にどうしているのかも尋ねてみました。
人により乗り越え方はいろいろですが、経験値が高い人ほど「スランプを気にしない」という人が多いことがわかりました。スランプを繰り返し経験していくうちに「今はそういう時期なんだな」と割り切って受け止める人が多いのです。
「必ずこれは脱出するタイミングがあって、一生続くわけではない。そういうサイクルに入っているだけだ。今はそのタイミングで、時間が経てばスランプから抜けられる」このように客観的に見ている人が多くいます。割り切って気持ちをラクにさせている人が、経験が長い人ほど多い印象でした。この考え方もぜひ参考にしてみてください。
なかには、自分でジンクスを作って気持ちを切り替えている人もいます。昔の話になりますが、私は新入社員のときに売れるリップを自分で作っていました。たまたま休憩時間中に買ったメイベリンのリップで、可愛い色で気に入っていたのですが、「このリップを塗ったら売れる」というジンクスを自分で作ったのです。
当時、私が提案した何十点もの商品をトータルで一式、フルセットでお客様に購入いただいたことがありました。そのときにつけていたリップを「売れるリップ」にしたのです。
落ち込んでいるときにも、そのリップを塗るとできるような気がしました。接客をして、たくさん売れるわけではなくても、1つ購入いただくだけでも「このリップを塗ったからうまくいった」と救われた気持ちになりました。
私にとってはそのリップはピンチを乗り越えるためのアイテムで、売るためのおまじないでした。接客中にだんだんとリップが取れてくるため、うまくいかないなと感じたときにはリップを取り出して、化粧室で塗り直していました。リップを塗って店頭に戻ってくると、次には売れたこともあります。それが私のなかでは大切なルーティンになっていました。
身につけるモノでジンクスを決めておくと、うまくいかないときにも安心材料になります。生活のなかで「これをやると売れる」というルーティンを決めて、自分を支えていく方法もおすすめです。
攻める営業では圧倒的な量をこなして質を上げる
売れない理由が「営業が足りないから」だとわかった場合、攻める営業に力を入れることも必要です。営業目標やノルマがあり、それが未達で積極的に営業をかけなければならない状況もあるでしょう。
BtoBでも新規顧客開拓のように、アウトバウンド営業に力を入れることがあります。電話やメール、飛び込み営業の量を増やすことをイメージしていただけるのではないでしょうか。
攻める営業についてアドバイスをお伝えすると、量をこなすことは絶対に必要です。そして、その経験を通して自分自身の質を高めることも大切なポイントです。
私は販売員としてウェディングドレスや宝石といった高額商品を豊富に扱ってきました。接客・販売量を増やすことで決定率はだんだんと上がっていきますが、最初はそれほど売れるわけではありませんでした。圧倒的な量をこなすことで、接客と販売スキルの質が上がっていったのです。
経験値が溜まり、それによって今まで見えていなかったことが見えるようになると、モノを売る際にも目利きができるようになります。その目利きによって状況判断がしやすくなりますから、お客様との会話や提案がより良くなり、モノが売れるようになるのです。
経験値が増えていくと「こういうお客様のケースはこう対応した」という成功事例も増えていき、自信もつきます。物事がうまく進まないときでも、どうすれば着地できそうか予測がつきやすくなります。経験がなければその予測も立てられず、解決策も未知のままです。
失敗の経験も必要です。失敗することで次回はどうすればいいのかと対策を考えられるようになり、それを実践していくことで自分の質が高まります。このことは販売の仕事に限りません。
要するに、どのような商材でも量は必要です。BtoBの営業においても、お客様とのタッチポイントを多く持っていることは必須で、そのうえで量をこなすことで得られるスキルや経験が決定率向上に繋がります。
自分の質が上がれば、お客様から選ばれるようになります。お客様は「信頼できる人からモノを買いたい」と思っています。特にBtoBでは「知らない人からモノを買いたくない」という心理が働きやすいものです。
量をこなして、自身の質を磨いて決定率を上げること。成功体験から自信をつけて、お客様に選ばれる存在になるという考え方を持つことが攻める営業のコツです。