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「能力の高い部下」をどうマネジメントすべきか? 2タイプの支援方法

クレア・ヒューズ・ジョンソン(Stripe執行役員兼顧問), 二木夢子(翻訳)

2025年05月16日 公開

「能力の高い部下」をどうマネジメントすべきか? 2タイプの支援方法

ハイパフォーマーの成長を促し、さらなる高みを目指せるよう導くために、マネージャーができることとは? GoogleでYouTubeやGmailなどを急成長させ、オンライン決済のStripeでCOOを務めたクレア・ヒューズ・ジョンソン氏による書籍『スケーリング・ピープル』より解説する。

※本稿は、クレア・ヒューズ・ジョンソン著, 二木夢子(翻訳)『スケーリング・ピープル 人に寄り添い、チームを強くするマネジメント戦略』(日経BP)を一部抜粋・編集したものです。

 

ハイパフォーマーをマネジメントする

抜きんでた力を持つ従業員、つまりハイパフォーマーのマネジメントは、マネジャーの仕事でおそらく最もやりがいを感じられると同時に能力を要求される仕事だろう。どのような企業でも、能力のある人物を採用し、育成し、雇用し続けたいと思うのは自然なことだ。

最近、人材に対して80対20の法則を採用しているCFOに出会った。従業員の20%が80%の仕事をするようにしているのだという。人材に対してこの"パレートの法則"が当てはまるかどうか、わたしは確信が持てないのだが(※1)、ハイパフォーマーが頭数以上の仕事をしているという点ではこのCFOの考えは正しい。

従業員の成績が良くなる要因は、たいてい、その人物が持つ志、やる気、そしてそのような気質に伴う同僚への影響だ。そうした従業員は自分に対して厳しいものだが、他者に対しても厳しいことがある。ハイパフォーマーのマネジメントにはエネルギーが必要だ。こうした従業員は影響力が高く、周囲の人々に要求するエネルギー量も多い。

ハイパフォーマーをマネジメントするには、まず、相手の原動力と仕事のしかたを理解しなければならない(相互の自己認識力を築く必要がある)。そうすることで、その従業員があなたのチームで能力を発揮する手助けができるようになる。

 

プッシャーとプラー

ハイパフォーマーは、わたしが"プッシャー(押す人)"と"プラー(引き寄せる人)"と呼んでいる2タイプに分類できる。状況次第でどちらのタイプにもなる従業員もいる。

プッシャーは志が非常に高く、批判的であることが多い。組織で何か問題が発生しているとすぐに気づき、自分と担当している職務に高い基準を設定している。プッシャーはパフォーマンス・レビューを自分の昇給幅が低いことや、責任が与えてもらえない理由を尋ねる機会として利用する傾向がある。モチベーションがあり、怒りや苛立ちを表すことをあまり遠慮しない。このタイプの従業員は、当然、あなたにマネジャーとしての責務を果たすよう要求する。

プラーも一種のハイパフォーマーで、自分がすべき以上の仕事を引き受ける傾向を持つ。常に仕事を引き受け、質の高い成果を上げるとわかっているので、リーダーやマネジャーはプラーをプロジェクトに参加させたがる。しかし、プラーは燃え尽きてしまうことがある。プラーたちはひっそりとむしばまれていき、1on1ミーティングで辞職を申し出るまでは不満をこぼそうとしない。このタイプは外部からの評価を重視しており、他人から好かれたいと思う人が多い。また、「ノー」と言えない人でもある。

わかりやすく簡単にいえば、マネジャーはハイパフォーマーにチームに加わってほしいということだ。もっと詳しくいうのなら、素晴らしい従業員は会社に対して人数以上のポジティブな影響を与えるが、人数以上のネガティブなインパクトを与えることもある。

プッシャーは可能性を持つ人材の育成支援を拒否して、他の人材の士気を低下させることがある。プラーは重要なプロジェクトであれば自動的に何でも引き受けるので、他の従業員が成長したり、優先度の高い仕事に貢献したりする機会がなくなり、リーダーたちから認められていないと感じるようになる。

マネジャーの課題は、両タイプのハイパフォーマーの良いところを伸ばすだけでなく、職場環境全体にポジティブな影響を与えられるようにすることだ。

 

プッシャー

プッシャーの能力が最大限に発揮されると、以下を期待できる。

・チームメイトや組織の成果が向上する
・優れた仕事がモデル化され、他の人員のやる気が刺激される
・トップクラスの人材を特定するコツをつかみ、こうした人材をプロジェクトやチームへと誘える
・プッシャーが、組織の問題に対する優れたレーダーのような存在として活躍する
・プッシャーがチームの枠にとどまらず、企業のオーナーと同じように行動する

 

一方、最悪の場合、プッシャーは以下のような問題を起こす可能性がある。

・才能は"良い面"と"悪い面"で構成されているが、プッシャーは"良い人材"か"悪い人材"かのどちらかしかいないと考える。また、"良い人材"はごく一部だと決めつける
・"悪い人材"に分類した人のことを無視し、育成したり、一緒に働いたりすることを拒否したりする
・社内に不信感をもたらす。プッシャーの存在や行動によって、仕事が認められない、または不当なプレッシャーにさらされていると感じる人が出てくる
・チームや組織に仕事を持ち込みすぎて、内部の人材育成をおろそかにする。いわゆる"エンパイア・ビルダー(帝国建設者)"になる

 

プッシャーを支援する方法は以下の通りだ。

・プッシャーが高い水準を設定することを推奨し、その設定に報いるようにする。プッシャーの仕事を個人的に、または人前で称賛する。昇進させる。昇給させる
・プッシャーと協力してトップクラスの人材を見いだし、その人材に機会を与える
・プッシャーと協力して組織が注意すべき領域を特定する。その領域に対処するためのプロジェクトを率いるよう、プッシャーに依頼してもよいだろう
・プッシャーが人を育成するのを支援する。人の成長を支援する能力を改善点として指摘すれば、プッシャーはこの機会に積極的に取り組んで、改善することがよくある。他人の誤りを指摘するばかりではなく、他人の強みを認めるように話してみよう
・スケールアップするためには、間接的に影響を与える方法について学ぶ必要があること、すべての仕事を自分のチームでこなすことはできないことを伝える。仕事を人に任せて、相互の信頼を築く方法についてのコーチングを提供する

 

プラー

プラーの能力が最大限に発揮された場合は、以下を期待できる。

・優先度の高いプロジェクトのための優れたリソースとなる
・成功させるべき急ぎの仕事にすぐに取り組める
・質の高い仕事をモデル化する
・組織の他の人員をやる気にさせる
・エネルギーと責任感にあふれる。また、チームを楽しくしてくれる一方、以下のような問題が発生する可能性もある。
・燃え尽きてしまう
・本人の時間やスキルを有効に使えるとはいえない仕事を引き受けてしまう
・他の人の育成に役立ちそうな仕事を任せようとしない
・良いプロジェクトをすべて担当してしまうので、他の人のやる気をそいでしまうことがある

 

プラーを支援する方法は以下の通りだ。

・仕事の優先順位をつけ、線引きをするのを支援する
・仕事を引き受ける前に、自分に対して以下の質問をするように勧める。
―自分はこの仕事に最適な人員だろうか?
―この仕事は取り組むべき最も重要なことだろうか?
―この仕事のためにあきらめなければならないことは何だろうか?
・プラーが与えられた仕事を片っ端からこなすのではなく、本人の興味や熱意を認識できるように支援する
・プロジェクトを断る方法をコーチングする
・プロジェクトへの参加依頼を断っても、他のエキサイティングな取り組みに携わる機会をなくすことにはならないと説得する
・プラーが自分の代わりにプロジェクトに参加してくれる人を見つけられるように支援し、仕事の委任と人材の育成に力を入れられるように育てる

 

※1:"Pareto Principle,"Wikipedia英語版、2022年1月21日現在の記事による。https://en.wikipedia.org/wiki/Pareto_principle.

日本語版記事:"パレートの法則"

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%91%E3%83%AC%E3%83%BC%E3%83%88%E3%81%AE%E6%B3%95%E5%89%87

 

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