
誰にでも、漠然とした不安がじんわりと湧き上がってくることがあります。そんな気持ちとどう向き合えばいいのでしょうか? 過去や未来にとらわれず、今を大切にするヒントを書籍『媚びない人生』より紹介します。
※本稿は、ジョン・キム著『媚びない人生』(PHP文庫)より、内容を一部抜粋・編集したものです。
漠然とした不安に負けない
漠然とした不安を持ってしまうことに、悩む若者は多い。しかし、若い世代にとっては、それは青春の証拠だと思ったほうがいい。一方でそれなりの年配になっても漠然とした不安を抱くのは、未熟の証拠と言わざるを得ない。
そこには、残念ながらあまり希望も見出せない。過去数十年間、自分としっかりと向き合い、自分を成熟させることを怠け続けた結果が、漠然とした不安につながってしまっているのである。
10代、20代では、挑戦もそれほどたくさんしていないし、自分が残してきた実績もない。自分の中で強がる自信はあったとしても、自信の裏にある根拠はなかなか探せない。高い目標を目指して一生懸命頑張っているけど、心の中ではなぜか不安がつきまとっている。でも、それは若い人には当たり前のことだし、若い人の特権でもあるのだ。
むしろ、漠然とした不安があるからこそ、もっと信頼できる自分を作ろう、プライドを高められる根拠を作ろう、という動機付けにもなる。若い時代の漠然とした不安というのは、ネガティブな証拠ではなく、ポジティブな証拠なのである。むしろ、漠然とした不安を持っていたほうがいいのだ。
漠然とした不安を内面からすべて追い出していくための努力は、まさにこれからスタートすればいい。大切なことは、そこに立ち向かう意識である。漠然とした不安を前にして、どうするか、にこそ人間の差が、成長の差が生まれてくるのだ。
私自身にも漠然とした不安はあった。その不安は未来が見えないことによるものでもあったが、不確実な未来に対する自分の統制・対応・適応能力の限界を感じることに起因するものでもあった。まだ訪れていない未来を予測することは難しい。
しかし、自己の統制能力を高めることは不可能なことではない。
自己の統制能力というのは、自己の感情、思考、言葉、行動を統制することであり、すなわちそれは内面のコントロールに他ならない。自己の内面の検証を行い、内面的な省察を日々積み重ねることで、社会に対する、未来に対する、そして自己の感情的な動きに対する統制能力・対応能力を高めることができるのだ。
内面こそが人生の始発駅であり、終着駅である。生きるということは内面を深めていく、成熟させていくプロセスである。死はいつか訪れる。いや、確実に訪れるという覚悟に基づいて、今のこの瞬間を最後だと思って生きていかなければならない。死と真正面から向き合うことで初めて人間らしい生き方ができる。ただ、生きているだけでは動物と何ら変わらない。
不安というものは、上昇志向が強ければ強いほど大きくなるものだ。自分でコントロールできないことばかりが目についてしまう。本当は自分の内面をうまくコントロールすれば、そういうものも見えなくなるということにも、なかなか気づくことができない。
ただ、漠然とした不安があったからこそ、私は必死になった。その意味では、不安は成長の原動力にもできると改めて実感している。
いろいろな人の伝記を読めばわかることだが、夢を実現した人たちは何らかの形で抑圧や強制、さらには不安と戦い、そこに意味を見出して日々を積み重ね、ようやく偉人の境地にたどり着いているものだ。
不安は当たり前なのである。それを前提として、次を考える必要があるのだ。
過去に縛られず、未来に怯えない
言うまでもないことだが、過去を変えることはできない。過去は不可抗力である。学ぶものは学んでいいし、それを今につなげていくことは有用だと思うが、起きたこと自体を後悔することに意味はない。過去に起きたことを眺めることは時に大事だが、過去には縛られないことこそが、重要である。
一方、未来は完全に予測することはできない。夢見ることはできるが、それが思う通りになるかどうかは、確実性がない。だから不安になるわけだが、未来は予測するのが難しいから未来なのであって、逆に完全に予測できる未来など、それはそれで虚しい。そんな人生は人生でも何でもなく、途方もなくつまらないものだと思う。
完全に予測ができない。しかし、自分が主体として何かのアクションを起こしたとき、その最終結果に対し、何らかの影響を与えられるからこそ、人生は面白いのだ。訪れていない未来は、たしかに不安の材料でもあるが、逆にいえば、まだ起きていないのだから、自分に何とかできる部分がある。必要なのは、未来に及ぼすインパクトを大きくしていくために、自分が今、何をすべきかを考え行動することである。
それでも未来は不安だ、という声が上がる。過去に成功体験を持った人たちは、その成功体験を失うことに怯える。自分の過去を過大評価してしまうからだ。一方で、過去に成功体験を持てなかった人は、未来の不確実性に、また成功できないのではないかと怯える。
まず、過去にうまくいった人は、今この瞬間に対する緊張感が必要だろう。気を引き締め、このままではいけないという危機感をあえて作り出すほうがいい。
逆に過去にうまくいかなかったなら、未来をうまくいかせるための大きな財産を過去に手に入れてきたことに気づくべきである。
大事なことは、過去と未来を、今現在とどう向き合うか、ということにつなげていくことだ。これさえうまくいけば、漠然とした不安を消していく力が生まれる。
そして心がけるべきなのは、過去から見た今の自分は、常に成熟した自分であるべきだ、と認識することだ。そしてもうひとつ、未来から見た今の自分は、常に未熟であるように現在の行動をもってこれからの未来の自分を創り出していくことである。つまり、過去からみて成熟した自分、未来からみて未熟な自分を構築することだ。
これこそが、過去に縛られず、未来に怯えない方法。それは実は、今この瞬間に挑み続ける、ということである。