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連絡先不明、食べログ掲載拒否「情報がないイタリア料理店」に予約が殺到する理由

見冨右衛門(クリエイティブディレクター)

2025年06月05日 公開

連絡先不明、食べログ掲載拒否「情報がないイタリア料理店」に予約が殺到する理由


※写真はイメージです

「成功している飲食店」には、飲食業にとどまらない「ビジネスのヒント」がぎっしり詰まっています。これまで実に1万1000軒以上のお店を食べ歩き、ZOZOTOWN創業者の前澤友作さんの「食のブレーン」も務める見冨右衛門さんによる書籍『一流飲食店のすごい戦略』より、「メゼババ(mesebaba)」(イタリア料理・東京)を紹介します。

※本稿は見冨右衛門著『一流飲食店のすごい戦略 1万1000軒以上食べ歩いた僕が見つけた、また行きたくなるお店の秘密』(クロスメディア・パブリッシング)より一部を抜粋編集したものです。

 

「情報がない」というのも「美味しい情報」になりうる

飲食店のストーリーは、たとえばお客様の心の琴線に触れる「美味しい情報」に宿り、料理を通じた思想・哲学の「プレゼンテーション」に宿り、料理や店の「コンセプト」に宿る。他方、逆説的ですが「情報がない」というのも、実は「美味しい情報」になりえます。

今は飲食店の情報が簡単に手に入る時代です。キーワード検索をすれば、店の外観から客席の様子、料理、訪れた人たちの評価まで詳細にわかってしまう。

そんななか、「すごくいい店らしい」「美味しいらしい」という漠(ばく)とした情報が聞こえてくるばかりで詳細がわからないと、人は自然と関心を抱きます。「実際、どんな店なんだろう?」と。「食べログ掲載拒否」の飲食店などは、その典型例でしょう。

ここでは、そんな店の1つ、「メゼババ(mesebaba)」(イタリア料理・東京)を紹介します。

 

メゼババ 「連絡先すら不明」「予約は数カ月待ち」に自ずと高まる期待

どの国の料理にも高級路線と庶民路線がありますが、個人的にはイタリアは庶民路線の料理が特に優れていると思ってます。向こうの言葉でいえば、レストランを指す「リストランテ」よりも、大衆食堂的な「トラットリア」のほうが食文化としておもしろいと感じます。

メゼババは、そんなトラットリア的な料理を自分なりに翻訳し、最高級の食材を使ってオリジナルの大衆イタリア料理を出している店だったのです。大皿でドカンと出される料理の見た目は素朴そのもの。でも、どの料理も滋味深くて、どこか懐かしく、そして涙が出るほど美味しいのです。

現在は移転しているのですが、当時、東京の亀戸にあったお店に行ったときのことは鮮明に覚えています。一例を挙げると、卵と黒こしょうだけでつくる「貧乏人のパスタ」。

リストランテではまず出てこないような「ザ・大衆料理」なのですが、それがメゼババのスペシャリテ的な一皿になっている。そこからして、トラットリア料理にかける意志が伝わってきます。

メゼババは食べログ掲載拒否につき、連絡先は不明です。私も長いこと「予約は数カ月待ち」という情報と、食通の友人たちの絶賛の声ばかり聞いていました。そのメゼババにようやく行けることになったときの期待の高まり、興奮が格別だったことはいうまでもないでしょう。

もちろん中身が本当に優れているからなのですが、情報がないことがかえって「美味しい情報」となってお客様を惹き付け、高まる期待、そして最終的には高い評価につながるということも、たしかに起こりうるのです。

メゼババのお店は、更なる進化を遂げています。シェフの髙山大さんは、2022年元旦に属性に甘んじてはいられないと「イタリア料理からの脱却」を宣言。2023年に外苑前へ移転しました。さっそく伺いましたが、レモンのパスタや松茸ご飯、四万十川の鮎など、イタリア郷土料理から、「素材で勝負」ともいうべきシンプルな料理になっていて驚きました。

華美な演出を取り払った本質的な料理は、まさに「侘び寂び」という言葉がピッタリです。「守破離」という言葉が日本にはありますが、守るから、破るを超えて、離れるの境地に達したように感じます。これから髙山さんがどんな「髙山料理」を見せてくれるのか、楽しみで仕方ありません。

 

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