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なぜ話が伝わらない? 相手に「信頼感がない人」と思われている可能性

西剛志(脳科学者)

2025年09月30日 公開

なぜ話が伝わらない? 相手に「信頼感がない人」と思われている可能性

仕事や日常のコミュニケーションで、こんな場面に心当たりはないでしょうか。

丁寧に説明したのに、完成した成果物を見てみると「自分の思い描いていたものと違う」と感じた経験です。

言葉を使って伝えたはずなのに、なぜか意図が正確に届かない――。脳科学では、このような現象を「認知のズレ」と呼びます。

この「認知のズレ」はどういった場面で、なぜ起こるのでしょうか? 脳科学者の西剛志さんの書籍『結局、どうしたら伝わるのか』よりご紹介します。

※本稿は、西剛志著『結局、どうしたら伝わるのか』(アスコム)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

信頼をつくるのは難しい。でも信頼感はすぐつくれる

話をするときにまず気にしないといけないことは何か?

そう質問されたら、どう答えますか?

私は迷わずこう答えます。

「ちゃんと相手の話を聞くこと」だと(「ちゃんと」のところが大切です)。

え、話をするのに大切なのが「聞くこと」? そう疑問に思った人もいるかもしれません。でも、「ちゃんと相手の話を聞くこと」が最短で相手とのコミュニケーションをうまく生かせる方法です。

なぜ「ちゃんと聞く」ことが大切なのか。

その理由は、相手との認知のズレをなくすためです。「ちゃんと聞く」ことで、相手の視点を理解しやすくなります。

そしてもうひとつ、「ちゃんと聞くこと」のメリットがあります。

それが「信頼感」です。

信頼が大切ということはよくいわれていますが、ここで私が大切と言いたいのは「信頼」ではなく「信頼感」です。この「感」がつくだけで、意味は大きく異なります。

以前、こんなことがありました。

ある家電ショップにコーヒーメーカーを探しに行ったときのことです。店員さんにコーヒーメーカーの機種ごとの特徴を聞きました。するとその店員さんは、とても流暢なセールストークで、あるコーヒーメーカーを推薦してきたのです。

そのコーヒーメーカーは明らかに「その人が売りたいであろう」コーヒーメーカーなんだと思います。トーク内容も練られていて、口がうまいとはこういうことをいうのかというほどでした。

でも、その説明がまったく心に響かなかったんです。

「この人はこのコーヒーメーカーを売りたいんだな」ということがバレバレだったからです。私が知りたかったのはメーカーや機種による性能の違いでした。

でもその店員さんが話してくれたのは、彼が薦めたいコーヒーメーカーのよさと、ほかのコーヒーメーカーのマイナス点でした。

結局、その日、私はコーヒーメーカーを買うことはありませんでした。

後日、ほかの家電ショップに行きました。そして前回と同様に、店員さんにコーヒーメーカーの機種ごとの特徴などを聞きました。するとこの店員さんは、前回行ったお店とはまったく違う対応でした。

「お客様はどういうコーヒーがお好きなんですか?」
「どういうときに、コーヒーを飲まれるのですか?」

私に質問を投げかけてきたのです。その質問に答えると、

「お客様のご要望をまとめると、このコーヒーメーカーがお客さまに最適かと思います」

と言って、あるコーヒーメーカーを薦めてくれました。

この店員さんの話に納得した私は、そのお店で彼がすすめてくれたコーヒーメーカーを買いました。

同じコーヒーメーカーを買いに来たのに、1店めでは「ここでは買いたくない」と思い、2店めでは「ここで買いたい」と思った。真逆の結果です。

なぜこんなことが起きるのでしょうか?

口がうまい人っていますよね。セールスパーソンであれば、流暢に商品の魅力を話し、スラスラと話をすすめていく。でもこういう人から商品を買いたいかというと、答えはNOです。

理由は、「売り込もう」としているからです。

トークのスキルを使って、相手に売ろうとする。こういうときに、売り込まれる側の脳がどうなっているかご存じでしょうか? このとき、相手の脳で「ミラー理論(専門用語でミラーシステム)」が起きています。

ミラー理論とは、目の前のものを自分の脳に鏡のように再現する神経細胞ネットワーク(ミラーニューロン)が働くことをいいます。有名なのは、もらい泣きや、スポーツ観戦していると自分まで試合に出ているような感覚になる現象です。

要は、相手と同じような感情やテンションになることを表します。言葉以外の、非言語の情報が相手に投影されるのです。

家電ショップの店員さんのケースであれば、店員さんの話しぶりや行動で「この人は私のことを考えてないのかな」と気づいてしまう。それがミラー理論です。

結局、そのせいで信頼感のある関係構築ができなくなります。信頼感のない人の言葉は、相手には入っていきません。信頼感が持てない人から「こうすれば?」って言われても、従いたくないですよね。

でももし同じ言葉を、信頼感が持てる人から言われたらどうでしょうか?

「こうしたほうがいいんじゃない?」と言われたら、そうしようかなと思うのではないでしょうか。人と人がコミュニケーションをとるうえで大切なことが「信頼感」です。信頼をつくるのには時間がかかりますが、信頼感はいってしまえば一瞬でつくれます。

そして、信頼感が持てる、持てないはミラー理論によって、わかってしまいます。

いくら話がうまくても、伝え方のコツをつかんでいても、信頼感がないと相手にはなかなか伝わりません。

嫌いな人の話は全然自分の中に入ってこないのは、信頼感がないからです。信頼感がない人の話は、疑って聞いています。そうなると、話す人と聞く人の間で認知のズレが発生するのです。

 

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