怒ってもいい場面とは? 公認心理師が解説するアンガーマネジメント
2025年09月23日 公開
イライラの感情は、自分にも相手にもストレスを与えかねません。本記事では、公認心理師の上野恵利子さんが、誰でも簡単にできる「アンガーマネジメント」についてご紹介します。(取材・文:キムラミワコ)
※本稿は、『PHP』2025年9月増刊号の著者の連載「自分をケアする練習」より抜粋、編集したものです。
イラッとしたら深呼吸
私は看護師になって3年目のときに、看護の質を向上するための看護研究で「アンガーマネジメント」を学びました。アンガーマネジメントとは、怒りの感情と上手につきあうための心理トレーニングです。
忙しない病棟にはイライラしている看護師が多く、怒りの感情が湧きあがったら、6秒待って一呼吸置くことを、約20名の同僚と実践しました。すると1カ月も経たないうちに、「冷静に対応できるようになった」「患者さんとうまくコミュニケーションが取れるようになった」などの効果がありました。
これは怒りが生じてから理性が働くまでに約6秒かかることを利用した対処術です。売り言葉に買い言葉のように、相手にいやなことを言われて反射的に心ない言葉をぶつけたり、モノに当たったりした経験はありませんか?
6秒をやり過ごせば、怒りにまかせた衝動的な行動を起こしにくくなりますし、冷静になれれば「怒らない」という選択もできるかもしれません。
怒りの感情が湧いたら、まずはゆっくり深呼吸をしましょう。イライラすると呼吸が浅くなる傾向があるので、呼吸を整えるだけで気持ちが落ち着きます。また、手のグーパー運動やストレッチで心身の緊張をほぐしたり、「たいしたことはない」と自分に言い聞かせたりするのも効果的です。6秒ただ待つだけでなく、何をするかあらかじめ決めておき、いろんな方法を持っておくといいでしょう。
私は6秒を数えることに慣れて効果が薄れてしまったので、100から7ずつ引いて、怒りから意識をそらします。もし6秒待ってもイライラが鎮まらないときは、化粧室に行くなど、いったんその場を離れると、気持ちを切り替えられます。その際、また戻ってくることを相手に伝えるのも忘れないようにしましょう。
自分が怒りやすいパターンを把握する
怒りの原因は、相手や出来事にあると思われがちですが、自分にあります。他人への願望や理想が裏切られたときに、怒りの感情が湧くからです。
人はそれぞれ生まれ育った環境でつくられる「べき」という価値観を持っています。たとえばメール一つでも、「受け取ったらすぐに返信すべき」と考える人もいれば、「急ぎでないのなら翌日までに返事をすればいい」と考える人もいます。そうした自分の価値観とは異なる場面に直面したときに、許せないと怒ってしまうのです。
特に家族や親しい人に対しては、「わかってくれて当たり前」という期待と甘えから、イライラしやすくなる傾向があります。感情のままにきつい言葉で責めるなど、過度な憤りをぶつけて後悔したことはありませんか?
大切なのは、自分で怒りをコントロールできるかどうかです。そのためにも、普段から怒りの傾向やパターンを把握しておけるといいでしょう。ここでは、怒りを記録して整理するアンガーログを紹介します。

アンガーログはイラッとした日時と場所、何があり、どう考えたかを記録します。そして、10点を人生最大の怒りとして何点かを書き出します。メモ程度でいいので、できるだけ早く、覚えているうちに書きましょう(上図)。日常的に記録すると、怒りやすい場所や人の傾向が見えてきます。
さらに、自分がどんな価値観を大事にしているかを振り返りましょう。たとえば自宅で家族に怒りやすく、「リビングをきれいにするべき」という価値観を大事にしているなら、「せめて床に物を置かない」「日曜くらいは散らかしてもいい」という具合に、どれくらいなら許せるかを考えてみます。これをアンガーマネジメントでは、「べき」を緩めると言います。許せる範囲が広がると、「べき」が裏切られる回数が減ってイライラすることが減少します。
職場や家庭、同じ空間を共有するコミュニティーでは、いつでも誰に対しても、同じ「べき」を課すようにしてください。たとえば会社の同じ部署で書類の提出期限を守らなかった人に対して、Aさんは許すけれど、Bさんは許さないとなると不公平ですよね。同じ相手に対しても、機嫌がいいときは許すけれど、悪いときは怒るという具合だと、信頼を得られなくなります。「べき」を緩める基準を相手や状況によって変えないようにしましょう。
怒る必要がある場面で適切に伝える
怒りの感情を整理できたら、次に自分の行動で何を変えられるのか、何は変えられないのかを考えます。「自分にとっても周りの人にとっても、長期的に見て健康的な選択は何だろうか?」と自身に問いかけてみるといいでしょう。この行動基準を、アンガーマネジメントではビッグクエスチョンと言います。
たとえば、何度教えても仕事を覚えてくれない後輩にイライラしたとき、自分でやってしまう人もいれば、粘り強く育てようとする人もいます。自分でやるほうが効率はいいかもしれませんが、後進が育たないと業務量が増えることになり、結局は自分に負担がかかるだけです。仕事を任せられるようになったら楽になるかもしれませんし、あなたに指導してもらえずに後輩が成長できないのは、不幸な状況とも取れます。
怒る必要があるときは、怒ってもいいのです。ただし、「どうしてできないの」と相手を責めるのではなく、怒っている理由と相手にしてほしいことを伝える必要があります。「3回までは目をつぶったけど、4回目だから少し言わせてもらうよ。わからないときは自分で調べて復習してから聞いてね」とリクエストしてみましょう。自分も相手も心地よく働くために、目の前の状況をどう解決できるかに目を向けてみてください。
怒りにはネガティブなイメージを持つ人が多いようですが、誰もが持つ自然な感情です。怒りと向き合えば、自分が大切にしている価値観に気づくこともできます。日々のストレスを軽減して気持ちよく過ごすためにも、ぜひ怒りを上手にコントロールする方法を身につけてください。
【上野恵利子(うえの・えりこ)】
公認心理師。大阪府生まれ。精神科の看護師として13年間でのべ3000人以上の患者と関わる。日本アンガーマネジメント協会公認講師。現在は、病院や企業向けの研修や講演、個人カウンセリングを行なう。著書に『「心の回復力」の高め方』(KK ロングセラーズ)がある。







