「賑やか」「情熱」「ロマンチック」そんなイメージが強いスペイン。
本稿の著者Ritaさんは、53歳の時に急に思い立って、学生として単身でスペインに渡り、3年間を過ごされてきたなかで、そのイメージは大きく変わったと言います。
本稿では、Ritaさんがスペインで感じた自分らしく生きる心地よさと、人と人との「ほどよい距離感」について語っていただきます。
※本稿は、Rita著『自由で、明るく笑って過ごす スペイン流 贅沢な暮らし』(大和出版)より一部抜粋・編集したものです。
大きなアクセサリー&真っ赤な口紅だって、美しい!
スペインの日常で感じるのは、「恥ずかしい」という感情の扱い方が、日本とはまったく違うということでした。
もちろんスペイン人にも羞恥心はありますが、人の目を過剰に気にして萎縮したり、外見や立場で自分を制限するような「恥ずかしがり」は、ほとんど見かけません。
ある日、通りで見かけた中年の女性は、ノースリーブのワンピースに大ぶりのアクセサリー、真っ赤な口紅。そして、堂々とした姿勢。
誰に見られているかなんてお構いなしに、好きな服を着て、好きなスピードで、好きな道を歩いている。その姿に、私は思わず見とれてしまいました。
日本にいた頃の私は、服装も、言葉遣いも、行動も 「目立たないように」生きてきた気がします。でも、スペインでは違うのです。
公園でダンスするシニアたち、バルでお酒を片手に語り合うひとり客、声を上げて笑うおばあちゃんたち。
自分の「好き」と「心地よさ」を優先している人ばかり。
「相手の気持ちを考えなくちゃ」「今日のメンバーにはこの服は派手すぎるかな」
そんなふうに、いつも周囲を優先していた私が、スペインの女性たちの姿を見て、「それでも自分を堂々と生きていいんだ」と、初めて感じるようになったのです。
最初は、ほんの小さな一歩でした。
ある日、昼間のカフェテラスで、お気に入りの服を着て、冒険して買ったオレンジ色のノートを開いたとき、ふっと肩の力が抜けました。
風の音、人の笑い声、まぶしい陽射し......そのすべてが自然に溶け合って、「この私でいいんだ」と思えた瞬間でした。
勇気は、いきなり大きくなくてもいい。
ほんの少しの挑戦が、ほんの少し景色を変えてくれる。
その小さな積み重ねが、やがて「自分らしく生きる力」になっていくようでした。
「人懐こいのに干渉しない」が心地いい

スペインで暮らすようになって、しみじみ感じるのは「人との距離感がちょうどいい」ということです。
私が最初に住んだのは、語学学校が手配してくれたホームステイの家。
そのあと、何件かのピソ(シェアハウス)に住みましたが、他人とキッチンや洗面所を共有する日々が多くありました。
これまでの人生で、家族以外と暮らしたことがなかった私にとって、最初は小さなストレスの連続。
でも次第に、その暮らしの中で「人との心地よい距離感」というものを学ぶようになったのです。
スペインの人たちは、驚くほど「人懐こい」のに、「干渉しすぎない」
日本で言う「お節介」や「察して文化」のようなものが、ほとんどありません。
たとえばピソの住人同士も、朝、顔を合わせれば「iBuenos dÍas!(ブエノス ディアス=おはよう!)」と声をかけるけれど、あとは自分の部屋で自由に過ごす。
「ちゃんと自立している」けれど、「困っていたら、ちゃんと助けてくれる」。そんなバランスが、ちょうどよいのです。
バスルームの排水が詰まったり、虫が大量発生したり、パニックになるごとに、隣室のスペイン人女性がこう言いました。
「ああ、それ? すぐ直るよ、大丈夫!」と、にこやかにスプレーを貸してくれたり、オーナーに電話してくれたり、手際よく対処してくれました。
まるで自分のことのように、でも過剰な心配もせず、スマートに助けてくれる。
そんな「ちょうどよさ」のあるやりとりに、私は何度も救われてきました。
逆に、自分が誰かの助けになれたときもあります。
洗濯機の調子が悪くて困っているルームメイトに、「これ、3分くらい待機してると動き出すよ」と教えてあげたとき、「ありがとう!」 と笑顔で返してくれたあの表情は、今でも覚えています。
この国では、年齢も国籍も関係なく、「対等に」つながることが大切にされています。
誰かの上でも下でもなく、必要なときにサッと支え合う。
でも、お互いの空間はしっかり守る。
そんな「自立」と「つながり」の絶妙なバランスこそ、スペインの人間関係の魅力だと感じています。
日本にいると、「人に頼るのは申し訳ない」と、気を張ってしまいがちです。
それが「大人として当たり前」「自立している証」のように思い込んでいたところが、私にもありました。
でも、スペインに来てからは、「頼ること」も「頼られること」も、どちらもごく自然で、当たり前の人間関係の一部なんだと気づかされました。
席の譲り合いは毎日のように見かけます。
バス、電車、公園のベンチ......。年配の方が近づくと、みんな当たり前のようにスッと立ち上がります。
ベビーカーが見えれば、全員が通り道を空け、「こっちこっち、ここのほうが広いわよ!」と手招きする人も現れます。
小さな子どもたちへも、怪我をしている人たちにも......。
座っていた人たちが特別親切そうに見えたわけではありません。
居眠りしていた人、携帯をいじっていた若者たち、ただそこにいた"ふつうの人たち"が、躊躇なく、すくっと立ち上がる姿に、他人を思いやる「余裕」がいつも用意されている。
スペインの人たちの心の豊かさを感じます。
「困っている人がいたら、助ける」。それが、誰にとってもごく当たり前のこととして日常に根づいている。
それを教えてくれたのは、スペインで出会った、たくさんの何気ない親切の積み重ねでした。
誰かに頼ることで、むしろ相手と心の距離が縮まることもある。
そんな経験を通して、私は少しずつ、「遠慮しすぎない自分」を受け入れられるようになっていきました。
「1人で頑張らなくていい」「誰かに甘えてもいい」「その代わり、誰かが困っていたら、自分もちゃんと手を貸す」。そんな、ゆるやかな信頼の循環を体感しています。
スペイン流の「肩肘張らない付き合い方」は、年齢や背景を超えて、心と心をつなげてくれました。
「人づき合いが苦手」「新しい環境でどう振る舞えばいいかわからない」。
そんな不安を感じたときこそ、スペイン式の「ほどよい距離感」を軸に、歩んでいきたいと思っています。







