迷ったとき、悩んだとき、勇気をくれる「論語の言葉」
2013年09月19日 公開 2023年01月18日 更新
※本稿は安岡定子著『子育て論語塾』(PHP研究所刊)より一部抜粋編集しものです。
人にはいろいろな感情があります。嬉しい、楽しい、寂しい、悔しい、ときめく。数え切れないほどの心の形があります。
たとえば、我が子と初めて対面した時の、生まれてきてくれてありがとうの嬉しい気持ちは、きっと何ものにも代えがたいでしょう。あるいは美しい情景に感動することもあるでしょう。
でも人生には、むしろ悲しみや、寂しさ、あるいは心折れそうなことの方が多いかもしれませんね。日常の些細なことで傷ついたり、迷ったり、人を羨んだり。
人は誰もが迷いながら、悩みながら生きています。そして、決して自分だけが心揺れながら生きているわけではありません。
『論語』は一見難しく見えて、実は内容はとてもシンプルです。人にとって大切なものは、仁――思いやりの気持ち――という考え方で一貫しています。
『子育て論語塾』で取り上げた名文・名句を通して、しばし『論語』の世界にゆっくりと心遊ばせてみてはどうでしょう。
迷った時にはよきアドバイスとなり、寂しい時にはそっと寄り添ってくれる。勇気がほしい時には背中を押してくれる。みなさんの心に響く、お気に入りの言葉がきっと見つかると思います。
迷いや悩みのない人生はありませんが、よき言葉は思うようにならない感情を温かく包み込み、明日へのエネルギーに換えてくれます。素敵な言葉を持っている人の心は柔軟です。壊れそうになっても、じんわりと元に戻っていきます。
では、少し、『論語』の言葉をご紹介いたしましょう。
<心の拠り所>
子曰わく、
「君子は矜にして争わず、
群して党せず。」
◇原文◇
子曰、
君子矜而不争、
群而不党。
(衛霊公第十五・22)
拠り所を持つと
心が強く、それでいて穏やかになれます。
「矜にして争わず」とは、難しい表現ですね。
「矜」には、厳か、誇るという意味があります。君子は誇り高いが、人とは争わない。大勢の人といても、偏ったつきあい方をしない、徒党を組んだりしないという意味です。いささか堅苦しい章句ですが、私はこの言葉が好きです。
確固たる、揺るがない拠り所を持つことは難しいですが、人を公平に見る目を持つことも、かなり大変なような気がします。
私たちは気心の知れた仲間といる方が気楽です。でももしそれが、利害が一致する人とのつきあい、利益を求めるだけのつきあいだとしたら、いつか破たんするでしょう。
「どうもあの人とは馬が合わない」
「あの人、苦手だな」
なんて感じることがあります。そんな人に対しても、日頃の自分との距離とは関係なく、公平なつきあいができたらいいですね。
この章句から、矜持という言葉を連想される方もあるかもしれません。
矜持は、よくプライドとか自負と言われます。自分には確かな拠り所になるものがあるので、自分の行いや言葉には自信があり、誇りを持っているということになるでしょうか。
いよいよ堅苦しいですね。でも矜持という言葉には、強さと情緒と美しさまでも含まれているように感じませんか?
今までに影響を受けた人物や言葉はありますか?
頼りとするものがありますか?
自分の心の中に大事にしている信念や支えがあるなら、それがきっと拠り所と言えるでしょう。それを信じることが、誇りを持つことになるのでしょう。実は、決して堅苦しいことではないのですね。
私はこの章句から、毅然とした大人の姿を感じます。私の憧れの姿です。