トヨタのリーダーは、トヨタウェイを語る~現場を動かす言葉
2014年11月07日 公開 2022年12月21日 更新
◆トヨタのリーダーは、トヨタウェイを語る
あれもやる、これもやるというムダがあってもいい。
トヨタ式というと「ムダ取り」を思い浮かべる人が少なくない。だが、2003年、当時社長だった張富士夫氏は、先輩たちから受け継がれている考え方としてこう話している。
「先に行ってもきっちりやれるためには、あれもやる、これもやるというムダがあってもいい」
環境にやさしい車の開発ではトヨタのハイブリッドシステムが有名だが、一方で、電気自動車や燃料電池車にも高い将来性がある。そして当時、燃料電池車の燃料となる水素をメタノールからとるのか、ガソリンからとるのかも課題となっていた。こうした場合、企業によってはある種の「決め打ち」をする。「これでいこう」と決めて突き進むわけだが、トヨタでは、決め打ちよりも「あれもこれも」やろうと考える。
やるべき技術がそこにあって、市場がどっちに広がるか予測できないときには、「どっちかだけ」を選ぶのではなく、金をケチることなく、どちらにも行く。「あんなものに金を使って」と言うのではなく、どちらも「徹底的にやれ」というのがトヨタ伝統の考え方だ。ムダや失敗があるからこそ技術は育ち、本物になる。
ムダには「許されないムダ」と「許されるムダ」がある。何でもかんでも「ムダ」のひと言で片づけないのがトヨタのやり方だ。
商人には“商売の道”がある。
「トヨタ中興の祖」と呼ばれている石田退三氏は、根っからの商売人であり、「自分の城は自分で守れ」を信条としていた。「自分の城」、それは技術に関しては外国企業に頼ることなく日本人の頭と腕で自動車をつくり上げることであり、経営に関しては無借金経営の実現だった。社長に就任した当初、石田氏はあちこちの金融機関を訪ねては金策を頼んでいる。このときの苦労があるだけに、「借金だけはまっぴらごめん」と堅実経営に徹することで、やがて「トヨタ銀行」と呼ばれるほどの強固な財務体質を築き上げている。
石田氏は「利益なき繁忙」を嫌い、利益を度外視したシェア拡大や成長至上主義は、商売道にはずれるものと考え、こう話していた。
「私の商売哲学はしごく平凡。10円かけてつくったものを11円で売る。この場合の1円は適正利潤である。もし11円で買ってくれる人がなかったら、何とか10円で売れるように考える。そのためにはコストを9円まで引き下げねばならない。ならば、その工夫をせよ」
「売値はお客さまが決める」がトヨタの考え方だ。そこで利益を上げるためには「いくらでつくるか」がポイントになる。メーカーにとって利益の源泉はつくり方にある。トヨタ式とは「ならば、その工夫をせよ」の結果である。
<著者紹介>
若松義人(わかまつ・よしひと)
1937年宮城県生まれ。トヨタ自動車工業に入社後、生産、原価、購買、業務の各部門で、大野耐一氏のもと「トヨタ生産方式」の実践、改善、普及に努める。その後、農業機械メーカーや住宅メーカー、建設会社、電機関連などでもトヨタ式の導入と実践にあたった。91年韓国大宇自動車特別顧問。92年カルマン株式会社設立。現在同社社長。中国西安交通大学客員教授。
著書に『「トヨタ流」自分を伸ばす仕事術』『トヨタ流「改善力」の鍛え方』(以上、成美文庫)、『なぜトヨタは人を育てるのがうまいのか』『トヨタの上司は現場で何を伝えているのか』『トヨタの社員は机で仕事をしない』『なぜトヨタは逆風を乗り越えられるのか』(以上、PHP新書)、『トヨタ式「改善」の進め方』『トヨタ式「スピード問題解決」』『「価格半減」のモノづくり術』『トヨタが「現場」でずっとくり返してきた言葉』(以上、PHPビジネス新書)、『トヨタ流 最強社員の仕事術』(PHP文庫)、『先進企業の「原価力」』(PHPエディターズ・グループ)、『トヨタ式ならこう解決する!』(東洋経済新報社)、『トヨタ流「視える化」成功ノート』(大和書房)、『トヨタ式改善力』(ダイヤモンド社)などがある。