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わかる!労働基準法―どの程度の欠勤、目標未達でクビになる?

布施直春(人事・労務コンサルタント)

2015年08月28日 公開 2023年02月22日 更新

 

どの程度の成績不良・欠勤で解雇される?

 

解雇に合理性がある場合とは?

 労働契約法には、解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を乱用したものとして、無効とする(16条)と明記されています。

 まず「合理的な理由」とは、普通誰が考えてもその解雇はやむを得ないという理由があることです。

 では、合理性の認められる解雇理由とはどういったものかというと、おおむね次の3つがあります。

 (1)労働者が働けない、あるいは適格性を欠くとき

 これには、次の場合が含まれます。
 ・本人の身体または精神に支障があり、業務に耐えられないとき
 ・勤務成績、勤務態度が著しく不良で就業に適しないとき
 ・技能・能率が著しく劣り、就業に適しないとき
 ・協調性を著しく欠くとき
 ・重要な経歴の詐称により会社と労働者の信頼関係が失われたとき

 (2)経営不振による人員整理、合理化により職種がなくなり、他職種への配転もできない場合など、経営上の必要性によるもの

 (3)労働者に悪質重大な服務規律違反の行為があったとき

 

「2回の寝過ごし」は解雇の理由になるか?

 また「社会通念上相当である」とは、解雇の理由となった事実と解雇という重大な処分のバランスがとれているということです。これについては、以下のケースの判例があります(高知放送事件、昭和52年、最高裁第二小法廷判)。

 この事件は、放送会社のアナウンサーA氏が、2週間のうち2度も宿直勤務で寝過ごして、朝の10分間のニュースを放送できなかった(1回目は10分間全部、2回目は5分間のみ)ということについての、A氏の解雇の効力が争われた事件です。

 判決は、A氏は責任感に欠けるといえるが、解雇は酷に過ぎ、合理性を欠くうらみなしとせず……として無効としました。

 その理由としては、(1)A氏に故意、悪意はない、(2)ともに寝過ごした記者はけん責処分にすぎない、(3)A氏はこれまで放送事故もなく、勤務成績も悪くない、(4)同社でこれまで放送事故で解雇された者はいない、(5)A氏は反省している、を挙げています。

 

「解雇もやむなし!」―「地位特定者」の成績不良を理由とする普通解雇

 ただし、たとえば「技能・能率が著しく劣り、就業に適しないとき」といっても、どのくらいのものを指すのかはケースバイケースとなります。では、解雇が有効とされる場合には、どんなものがあるのでしょう?

 ある会社での経営者、管理者等としてのキャリア、実績を買われて、別の会社に営業、人事、企画開発等の部課長等、地位を特定して採用された人達は「地位特定者」と呼ばれています。これについて、以下のようなケースがありました。

 H氏はこれまでの大企業の営業課長としての手腕を買われ、規模100人の企業の営業部長に転社しました。採用条件は、年間売上げ10億円、年俸1000万円。しかし結局、年間売上げが6億円に留まったため、1年で解雇を言い渡されました。

 本件の場合、労働契約の内容は明らかであり、それを実現できなければ、営業部長は契約に基づく債務を履行することができなかったということになります。ですから、能力不足を理由として普通解雇をされてもやむを得ません。会社としては、降格、減俸をして雇用を継続する法的義務もありません。

 

「目標を達成できなかった」ことは、一般社員の解雇理由になるか?

 個々の具体的なケースで、成績不良、ひいては能力不足を理由としてその従業員を普通解雇できるか否かは、能力不足が労働契約の債務不履行といえるほどのものかどうか、今後、契約を継続できないほど著しく、解雇事由に該当するかどうかによってきます。

 それでは各社が新規学卒者を一括採用する際の労働契約書の記載内容はどうなっているかというと、「当社に採用する」ということだけであって、具体的な配置部署、担当業務、必要とされる職務遂行能力などは契約内容となっていません。

 このため、一般的に言って、新規学卒で一括採用された一般職、総合職の従業員を、単に能力不足であるとして解雇することは困難です。

 裁判例を挙げると、人事考課が3回連続で下位10%以内だった労働者を解雇しようとした件では、下位10%というのは相対評価であり、改善の見込みがないとはいえないとして解雇を無効とした例や、利益があがらないことは、労働者の責任だけではないとして同様に解雇を無効とした例があります。

 ただし、著しい能力不足で会社の業務にまったく適しない特別の事情がある場合は、例外的に普通解雇が認められます。

 この場合、目標の未達成の原因が単なる能力不足ということだけではなく、業務に対する取り組みの熱意、意欲が不足していたり、勤務態度が不良であることによるもので、上司がたびたび注意しても改まらないといった事情も必要です。

 

欠勤・遅刻はどの程度で解雇されるか?

 従業員は、雇用されることにより、労働契約に従い始業時刻から終業時刻まで働くことを約束しています。

 時間どおり出社することは、従業員の基本的な義務であり、欠勤は労働契約に基づく債務の不履行です。遅刻は短時間でも労働契約違反です。欠勤や遅刻が多く、従業員として労働契約を継続しがたいときには、普通解雇は有効です。ただし、これらの行為を放置しておいて、いきなり解雇するのではなく、管理者が、事前に、勤怠不良の問題従業員に対して、勤務態度を改めるよう、口頭と文書をもって再三注意し、厳しく対処していることが前提となります。

 そして、注意を受けても遅刻、欠勤が直らなければ、けん責や減給といった軽い懲戒処分を行います。 それでも勤務態度が改まらないときは、解雇となってもやむを得ないでしょう。

 

非常に漠然とした「協調性欠如」を理由とする解雇は?

 「協調性の欠如」を理由とする解雇の有効・無効を争う判例を見ると、そのほとんどは、「協調性の欠如」が非常に漠然としたものであるため、そのこと自体を争うよりも、業務命令違反、勤務態度不良、会社の業務遂行の支障・混乱といった具体的な事実の有無、程度が争われていることがわかります。それらの総合評価として「協調性の欠如」が問題になっているのです。

 また、「協調性の欠如」が相当の程度だったとしても、解雇が認められるためには、その前提として会社側が本人に対して十分な注意、指導を行い、できれば配置転換を行うなど本人に改善の機会を与えることが必要です。

 そういったわけですから、この「協調性の欠如」に基づく解雇の有効・無効を訴訟で争うことになる可能性を考えると、会社側としては本人についての具体的問題事実と職場の支障・混乱の内容、会社として取った措置などを客観的に記録しておくことが欠かせません。

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