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⼼理分析を学ぶならアドラーよりあの名作?ー精神科医の読書履歴

2018年12月27日 公開

名越康文(精神科医)

名越康文(精神科医)

<<博学で知られる精神科医・名越康文氏。さぞ読書家だろうと思いきや、意外なことに読書は苦手だったのだったそう。

しかし、試行錯誤のうえに工夫を重ね、現在では苦手なりに一定の読書量をキープしているという名越氏が、これまでに編み出してきたさまざまな読書術に続き、今回はその読書歴を披露してくれた。>>

※本稿は名越康文著『精神科医が教える 良質読書』(かんき出版)より一部抜粋・編集したものです
 

「人間そのもの」が描かれたドストエフスキー

精神科医になった26歳の頃から、私は心理学の講座や講演を行っていましたが、「精神科の知識だけではあかんな」と思い始めました。

精神科医として、精神科の専門的な知識と専門用語で一般の人に心理学について話しても、相手には伝わりにくいと思ったのです。そこで、ごく一般的な心理学の入門書やハウツー本を読み始めました。

以前の記事でもお話ししたことですが、そのようなハウツー本を10〜15冊くらい読めば、その分野に関する読むべき本、読まなくてもいい本くらいはわかるようになります。このようにして心理学や思想、哲学に関する入門書など、人に説明するときの例に使える書物のよし悪しをすぐに判別できるように、「だいたいなったかな」と思えたのが30歳でした。

ある程度、入門書やハウツー本を読んだあとは、さらに詳しく書かれてある専門書に向かうのが一般的かもしれません。しかし私は、そこでいったん文学を読むことにしました。

その理由は、尊敬するN先生のアドバイスがきっかけでした。
「名越くん、きみが精神分析、心理分析をやろうというのなら、フロイトやアドラーの前にドストエフスキーを読んだほうがいい」と言われたのです。それでドストエフスキーを読み始めましたが、読むとたしかにこの順番がいいなと個人的には納得しました。

ご存知のように、ドストエフスキーの作品はとても難解ですし、読み進めるのがしんどい。

1人の登場人物が平気で10ページくらいしゃべっていますし、同じ人物でも呼び方が違っているなど名前が覚えづらく、人間関係を見失なってしまいます。

しかし、あの長い長い主人公の独白や、サブキャラの大演説を、「なんなんだこの熱量は?」といぶかりながらも読んでから心理学の本を読む。すると、個人的にはなんだかずいぶんシンプルに感じ取ることができて、スラスラ読めたのです。

これはまるでバットの素振りのようです。おもりをつけたバットを数回振っておくと、元のバットを振るときに軽く感じてシャープに振れるようになる。あれと同じ原理です。

また、「これはもう、何かの病気ではないか?」というようなエキセントリックな人物がたくさん出てくるドストエフスキーの作品をいくつも読むうちに、「世界はどうやら個の集まりではなく、誰かと誰か、現象と現象とのからみ合い、関係性で生まれてくる」と感じるようになりました。

そうでなければ、こんな複雑な個人がおのおの動くのですから、物事がからまってしまって前に進まないでしょう。

それを進めてくれるのが、「役割」「立ち位置」、つまり関係性なわけです。

心理学や精神医学の本をいくら読んでも、実際に目の前に患者さんがいて、その患者さんの症状が激しかったら圧倒されそうになる時もあります。

そういう最中にいると、症状や治療について書かれたすぐれた本を読んでも、「そんなにうまくいくはずないじゃないか。これは著者である医者の頭の中で考えた患者なんじゃないか」と思い始めるわけです。

そういうときはドストエフスキーの小説のほうが、私にとって「人間そのもの」が描かれているように感じられたのは事実です。

ドストエフスキーをどうにかこうにか読み終えたあとは、私なりに「哲学もわかったほうがいい」と、現象学や言語学の勉強の必要性を感じました。

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