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社会

最強の恐竜が滅び「弱者」が生き残った理由とは?

稲垣栄洋(生物学者)

2019年04月03日 公開 2024年12月16日 更新

哺乳類が生き残れた理由は「小さかったから」

そして、私たち哺乳類の祖先も生き残った。

恐竜の時代。哺乳類の祖先は、とても弱い存在であった。

自然界は強い者が弱い者を滅ぼしていく弱肉強食の世界である。そして、より強い者だけが生き残っていく適者生存の世界である。

大きい者が力を持ち、大きい者が強い時代である。恐竜たちは、進化するたびに大型化していった。

弱い存在である哺乳類が、この競争の中で勝つことができるはずがない。そこで、哺乳類が取った戦略が「小さいこと」を武器にしたのである。体が小さければ、恐竜の手の届かないところへ逃げ込むことができる。あまりに小さければ、巨大な肉食恐竜のエサとなることから逃れることもできる。しかも、体が小さければ必要とするエサも少ないから、エサの少ない場所でも生き残ることができる。

こうして、哺乳類の祖先は小型化の道を選んだのである。

 

夜型への進化が、哺乳類の武器に

とはいえ、小型の恐竜も存在する。

哺乳類たちは、さらに恐竜たちの目を逃れて新たな生活場所を見つけた。

それが「夜」である。

昼間は活動している恐竜が多いから、安心して活動することができない。そこで、恐竜たちの眠っている夜の間に、ひっそりと活動をするようになったのである。

とはいえ、あらゆる種類に進化をした恐竜でさえも活動しない「夜」に行動することは簡単ではない。哺乳類たちは、暗い闇の中でもエサを探すことのできる嗅覚と、聴覚を発達させた。そして、感覚器官を司る脳を発達させていくのである。この逆境の中で身につけた感覚器官と脳が、後に哺乳類の繁栄の武器となるのである。

恐竜が繁栄した1億2000万年もの間、哺乳類たちは恐竜の目から逃れてひっそりと暮らしていた。しいたげられた敗者だったのである。しかし、ひっそりと隠れていたことが幸いして、哺乳類たちは未曽有の大災害を生き残り、小さな体が、その後のエサが少なく寒冷な環境を生き抜くことに役立ったのである。

 

「地球最大規模の大量絶滅」が今まさに進行中

そして現在、六回目の大量絶滅の危機に迫っていると言われている。

絶滅の大きさは、1年間に100万種あたり何種が絶滅するかという指標で表されている。通常、この値は0.1程度である。これは、1年間に100万種あたり0.1種が絶滅をするということである。現在、地球上の生物種は知られている種類で約200万種程度とされているから、つまり現在、地球にいる生物が10年間で2種が絶滅する程度である。

地球史上最大の大量絶滅であったペルム紀末の大絶滅の値は110と見積もられている。

しかし、どうだろう。

現在から過去200年間の脊椎動物の絶滅の値は、106である。史上最大の大量絶滅に匹敵する絶滅が、今、私たちの目の前で起こっているのである。

過去の大量絶滅は、火山の噴火や隕石の衝突など物理的な現象によって引き起こされてきた。しかし、ユニークなことに六回目の大量絶滅は、生物によって引き起こされている。

その原因となる生物こそが、人類である。

思い出してほしい。過去に大量絶滅の憂き目にあったのは、地球を支配した強者たちであった。そして敗者たちが新しい時代を築いてきたのである。「地球を守ろう」と人は言う。「生物たちを守ろう」と人は言う。しかし、滅びるのは地球の支配者である人間の方ではないだろうか。

人類が滅んだとしても、地球はまったく影響を受けない。生物たちは人類の巻き添えを食うかも知れないが、やがて新たな生物たちが出現し、新たな生態系を築き上げることだろう。

38億年の生命の歴史の大激変に比べれば、人間が出現し、人間が滅びたとしても、何の影響もないのだ。

著者紹介

稲垣栄洋(いながき・ひでひろ)

植物学者

1968年静岡県生まれ。静岡大学農学部教授。農学博士、植物学者。農林水産省、静岡県農林技術研究所等を経て現職。主な著書に『身近な雑草の愉快な生きかた』(ちくま文庫)、『植物の不思議な生き方』(朝日文庫)、『キャベツにだって花が咲く』(光文社新書)、『雑草は踏まれても諦めない』(中公新書ラクレ)、『散歩が楽しくなる雑草手帳』(東京書籍)、『弱者の戦略』(新潮選書)、『面白くて眠れなくなる植物学』『怖くて眠れなくなる植物学』(PHPエディターズ・グループ)など多数。

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