“嫌われる勇気”を生み出した「本の読み方」
2019年11月05日 公開 2024年02月16日 更新
読み手の成熟がなければ、名著を名著として感じ取ることはできない
── 自分にとって読むべき本、その言葉や思想が心に深く刻まれるような本を選ぶ「選択眼」は、どのようにして養われるのでしょうか。
「この本、つまらなかったな」という本に何度も出くわしながら、自分で本を選ぶ経験を積むことでしょう。そのなかで、本を選ぶ力がおのずと磨かれていきます。人の薦められた本を読むのもいいですが、それに頼らないほうがいいかもしれません。
自力で、あるいは偶然見出した作家の書いたものを読み尽くすこともあります。伊坂幸太郎の小説はたくさん読みました。私が知ったときには大作家で、それまで知らなかったことを悔いました。伊坂さんは、『嫌われる勇気』が出る前から私の著作を通じて、アドラー心理学に興味をもっておられました。
『PK』という小説では、参考文献の一冊目に私の著作を挙げられていました。「勇気も臆病も伝染する」というアドラーの言葉が引用されています。アドラーは勇気と臆病を並べ、どちらも伝染すると書いているだけですが、この小説では最初に臆病が伝染するという話があり、後になって勇気も伝染する話が出てきます。秀逸な読み方だと思いました。
── 偶然にすてきな本と出会うことがあるのですね。
本との出会いは偶然が多いように感じられますが、振り返ると、何か一本の線が貫いていることがよくあります。この偶然を必然にできるかどうかは、読み手次第です。
高校の倫理社会の先生は、熱心に哲学について語ってくれる方でした。その授業を聞いていた生徒は当然私だけではありませんが、先生から影響を受けた生徒は多くありませんでした。
これは読書にもあてはまります。いくら名著と評される本でも、読み手側の成熟がなければ、そこから何も学ぶことはできません。
本の読み方を見れば、その人の生き方がわかります。常に名著リストにばかり頼って読書をしている人は、自分で決めるのが苦手な人でしょう。
また、自分にとって良い本を見つける人は、本選びに限らず、人生のどの局面も自力で切り拓いていける人だといえます。