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なぜポケモン全種類を大人になっても言えるのか? 最新技術が発見した“脳のポケモン野”

茨木拓也(NTTデータ経営研究所ニューロイノベーションユニットアソシエイトパートナー)

2019年12月30日 公開 2022年06月30日 更新

 

見ている動画の内容を画像として再構成

デコーディングに関しては、神谷先生をはじめ、日本が強い領域でもあります。現在NICT、CiNet(脳情報通信融合研究センター)にいらっしゃる西本伸志先生のグループが2011年に発表した「Vision Reconstruction」、すなわちfMRIで計測された脳活動の情報から、その人が今見ている動画の内容を映像として再構成する技術も世界に衝撃を与えました。

紹介したように、視覚関連のデコーディングは線分の傾きや、砂嵐が動く方向などシンプルな知覚に関するものから発展していったのですが、彼がすごいのは、その解読対象を、私たちの日常生活における連続的な視覚体験へと一気に飛躍させた点です。

彼らは「自然動画」と呼ばれる、映画のトレーラーなど私たちが普段目にする動画を、fMRIスキャナ内で被験者に大量に見てもらいました。

その際の「脳活動」と「動画特徴」との間をコンピュータに学習させ、大量の動画データベースの中から、脳活動から予測された特徴に近い動画を選定・平均化して画像を再構成するという方法をとることで、被験者が見ているものを視覚化したのです。

完璧に再構成されているわけではないのですが、なんとなく「女性が右側にいる」とか「飛行機が真ん中にある」などがなかなかの精度で当たっていてびっくりします。文章で読むより見たほうが速いと思うので、ぜひ見てみてください。(https://youtu.be/6FsH7RK1S2E)

私はこうした脳情報解読技術を使って動画広告視聴中の視聴者の認知内容の推定などマーケティング・コミュニケーションの分野にも適用できると考えて、彼らと共同で研究・事業開発をしています。(http://nttdata-neuroai.com/)

 

「神経予報」で、クラウドファンディングの結果を脳活動から予測

ほかにも変わり種だと、スタンフォード大のナットソン先生らのグループが2017年に発表した「クラウドファンディングの結果を脳から読み解く」というものがあります。

"Kickstarter"というクラウドファンディングのプラットフォームサイトから、研究時点で最新の36個のプロジェクト(ドキュメンタリーフィルム製作への投資を訴えるもの)のピッチをfMRIで脳をスキャンしながら、30人の被験者に評価してもらいました。

1つずつプロジェクトのトップ画像を2秒見て、その後プロジェクトの概要のテキストを6秒間見て、その後被験者はそれに投資をするかしないか判断するという、いたってシンプルなタスクです。

現実世界では、36個のうち18プロジェクトが資金調達に成功しました。興味深いことに、被験者の「主観報告(プロジェクトがイケてると感じるかなど)」はもちろんのこと、投資選択の「行動」データよりも、fMRIで捉えた側坐核の「脳活動」のほうが、資金調達の成否をより正確に予測できました。

これまで紹介してきた知覚体験の解読のように複雑な解読アルゴリズムは用いていませんが、彼らはこの成果を〝Neuroforecasting〞つまり「神経予報」と名づけています。

個人の感じている単純な知覚だけでなく、「価値を感じて投資するか」といったより現実的な行動、しかも解読対象の個人の行動ではなく、クラウドファンディングという実際の市場における信金調達の成否を予測するといった点で、脳情報をとる価値を示した研究といえます。

もしスタートアップを始めるなら、何案も企画や見せ方のパターンを用意して、この"Neuroforecasting"の技術を使って、一番いい提案を選別してみてはいかがでしょうか。

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