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なぜポケモン全種類を大人になっても言えるのか? 最新技術が発見した“脳のポケモン野”

茨木拓也(NTTデータ経営研究所ニューロイノベーションユニットアソシエイトパートナー)

2019年12月30日 公開 2022年06月30日 更新

 

デコーティングが明らかにした「ポケモン野」の存在

2019年に発表された「ポケモン野」の発見にも、このデコーディングのアプローチが応用されています。

私の世代=「小学生の頃にポケモン(初代)をいっぱいやった人」は、ゲームボーイの小さな画面(しかも荒いピクセル)に映し出されるモンスター(151種類)の名前を平気で覚えていて、大人になってもポケモンの名前を言うことができます。

ただ、ポケモンのゲームをやったことない人たちにとっては、「ただのピクセルで表現された動物みたいなもの?」です。

このように、同じものを見ても、人によって感じ方が異なるわけですが、それは視覚野の構成がそもそも違うからだということを研究者たちはデコーディングで示しました。

「顔」や「建物」など、対象物の視覚的特徴を処理する領域は脳の側頭葉の底面に位置していますが、ポケモンをやっていた人たちはその領域の脳活動パターンから「今この人はポケモンを見ている!」と解読できたのに対し、やっていなかった人たちはまったく解読できなかったのです。

「そもそもポケモンなんかわからない」という人たちにとっては、「ピッピ」も「ピカチュウ」も脳の中で情報表現されないわけです。これには幼少期の中心視、つまり視野の中心に何をインプットしてたかが重要そうです。

※ちなみに「ポケモン野」と言いましたが、正しくは「側頭葉の底面あたりに、今見ているのはポケモンかそれ以外かが表現されている領域がある」です。特定の脳座標に「ピカチュウ野」を見つけたわけではありません。

ほかにも、アイドル好きな人は、どんなにメンバーが多くても1人1人名前を言えますよね? 私の側頭葉には「欅坂46野」があるでしょうし、ハンバーガーマニアの友人にはハンバーガーを見ただけで「バーガーキング」か「バーガーマニア」か「クアアイナ」かを弁別する「バーガー野」がきっとあるはずです。

このように、個人が、その人の経験や嗜好形成で世界を特異的にエンコード(変換)することを、私たちは「個性」と呼んでいます。そういう個性や個人差の解明にもデコーディングは役に立つことを示唆する研究です。

 

「夢で何を見ていたか」を解読する

話がポケモンに飛んでしまいましたが、その後、神谷先生のグループはさらに、視野のどの辺に刺激があるかを解読する技術を作り、「neuron」という単語をfMRIの脳情報から「再構成」することに2008年成功しました。線分の傾きといった単純な情報だけでなく、複雑な形をした文字まで再構成できるのは、これまた衝撃でした。

彼らの研究はその後、「被験者が寝ている間に見た夢の内容を解読する」という成果に至ります。どうやったかというと、次の手順をひたすらくり返すという、実験者も被験者もなかなか大変な実験です。

1.被験者の睡眠状態を脳波でモニタリングしながら、fMRIで脳をスキャンする
2.夢を見ていることが多い「REM睡眠」という睡眠段階に入ったら被験者を起こす
3.「夢で何を見ていたか」を報告させ記録する

こうして苦労してfMRIで捉えた脳活動のパターンと夢の内容を機械学習でひもづけ、「こういう脳活動なら人物の夢を見ていた」と推定すると、実際に被験者が「今、ケイン・コスギとビーチにいました」などと答えていた、というような結果になりました。

ドラえもんの道具に「好きな夢を見れるようになる」というものがありますが、今後脳活動の操作・介入技術が進めば、本当にそうしたビジネスができることを予感させる成果です。

「睡眠中に見る夢」は、感覚器から入力があるわけでなく、自分の脳が勝手に作り出した仮想現実を体験しているという点でとても主観的なものです。それらの内容も「起きている時と同じような脳の領域に表現されていた」という事実を突き止めた点で、基礎科学としても大変興味深い成果です。

このように、まじめに、科学としておもしろく、しかも応用を妄想できるような研究に出会えるととても興奮しませんか?

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