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社会

なぜポケモン全種類を大人になっても言えるのか? 最新技術が発見した“脳のポケモン野”

茨木拓也(NTTデータ経営研究所ニューロイノベーションユニットアソシエイトパートナー)

2019年12月30日 公開 2022年06月30日 更新

 

脳波でスマホのロックを解除? 生体認証への応用も

さまざまなサービスが誕生し、それごとにID/パスワードが必要な現代社会。私も、ほぼ覚えていません。そんな時に、世界であなたにしかない個性を捉えて、スマホのロックを外したりできる生体認証は便利です。

生体認証技術には、顔、指紋、静脈、虹彩などがありますが、「脳波」も筆頭の候補です。現在有望なのは、写真や単語などを見せて、それに対する事象関連電位を見る方法です。

電極3つからとれる、人物写真や特定の単語を一瞬見た時の脳波の波形を集めるだけで、100%(50人の中から1人を当てる)の認識精度になりました。顔認証だと写真で通過されることもありそうですから、ハイレベルなセキュリティには、指紋ならぬ〝脳紋〞が求められるようになるかもしれません。

ちなみに、MRIで脳の構造画像を撮影し、「しわ」をパターン認識する方法も検討されており、それも99・6%の認識精度を出しています。こういう研究もあるので、脳の構造や機能に関わる情報も個人を特定しうる個人情報として扱う必要がありそうです。

 

自殺願望の有無を脳活動から解読できる可能性

2017年、カーネギーメロン大学とピッツバーグ大学の研究チームでは、自殺志願があるかどうかを脳から解読できるかを試みています。

17人の自殺志願者と17人のコントロール用の一般人を呼んできて、"Death"など死に関連する概念単語、"Good"や"Evil"などネガポジ双方の概念単語を合計30個、fMRIスキャナの中で見てもらいます。被験者は、単語を3秒間提示されて、意味を考えるだけです。

結果、自殺志願者と一般人の間で脳活動に違いが出てきた領域が、左下頭頂葉・左下前頭回など5か所ありました。そして、特に差を生む概念が"death(死)""cruelty(残酷)""trouble""carefree(のんき)""good""praise(称賛)"の6個であることもわかりました。

それらのデータを使うと、なんと91%の精度で自殺志願者を分類でき、さらに自殺志願者の中でも自殺未遂を起こした9人としていない8人を94%の精度で弁別できたのです。自殺者のすべてが医師や家族に自殺願望を表明しないまま自死に至ることも多い状況で、こうした解読技術は早期の発見に役立つことが期待されます。

また、概念から呼び起こされる「感情」の脳内表象でも高い解読成果を得られたことから、自殺志願は、「概念表象」≒「概念から想起される感情」が普通の人とは違うようです。これは新たな介入の可能性を示すものです。

たとえば、「普通の人は『死』から墓場を想像するけど、自殺志願者は自分のことを想像する」といったことが無意識に脳内で処理されていたら、それを変えるようなトレーニングをすれば自殺予防に効果があるかもしれないということです。

観測した脳の情報をもとに自分で脳の状態をコントロールできるよう訓練していくアプローチのことを「ニューロフィードバック」と呼びます。こうしたやり方で概念表象に介入することができるようになれば、新たな自殺予防の介入方法として確立するかもしれません。

今まで「何が欲しいの?」とか「自殺なんてしないで」等、言葉で尋ねたり説得したりしかできなかった人類が、ついに手にした「脳の情報の解読技術」。

一般市場においてよりユーザーの望むものをつくったり、脳・精神の疾患に関わる異常を特定しその情報処理にアプローチできる点で革命的な技術であり、世界に後れを取ることなくこの分野の技術を社会をよりよくすることに産業界・アカデミア・政策担当者、全員で取り組むべきではないでしょうか。

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