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なぜポケモン全種類を大人になっても言えるのか? 最新技術が発見した“脳のポケモン野”

茨木拓也(NTTデータ経営研究所ニューロイノベーションユニットアソシエイトパートナー)

2019年12月30日 公開 2024年12月16日 更新

なぜポケモン全種類を大人になっても言えるのか? 最新技術が発見した“脳のポケモン野”

次々と新たな研究成果が発表され、日々アップデートが進む脳科学の世界。この分野の実社会への応用について、最前線をひた走る一人がNTTデータ経営研究所の茨木拓也氏だ。

目覚ましい進化を続けるニューロテクノロジーの世界で近年特に注目を集めているのが、科学的な"マインド・リーディング"技術とも評される「ブレイン・デコーディング」である。

脳活動の計測を通して、脳に表現されている情報を取り出すこの技術は、マーケットの予測や、個人が見ている夢の内容の解読、さらには自殺のリスクを見分けるなど、多岐にわたる分野へ応用を期待されている。

ここでは茨木氏の著書より、「ブレイン・デコーディング」が秘める可能性や最新の研究成果について触れた一節をご紹介する。

※本稿は茨木拓也著『ニューロテクノロジー~最新脳科学が未来のビジネスを生み出す』(技術評論社刊)より一部抜粋・編集したものです

 

ブレイン・デコーディングーー脳情報解読の衝撃

私たちが感覚器を通して世界をどう知覚し、認識しているかという「感覚体験」の情報の解読は、ニューロテクノロジーの世界の中でも一大分野です。

特に、fMRI計測により多様で複雑な人間の知覚体験を解読・再構成するようなものは、ブレイン・デコーディング(脳情報解読)あるいは"科学的なマインド・リーディング"技術として、近年注目を集めています。

この分野は、現在京都大学にいらっしゃる神谷之康先生が世界的な権威です。神谷先生が2005年に発表した衝撃的な研究では、被験者に線分の角度がまちまちの縞模様を見てもらい、それを初期視覚野と呼ばれる、エッジの処理といった基礎的な視覚処理プロセスを担う領野の脳活動(fMRI)から解読(どの角度のものか当てる)できることを示しました。

さらに衝撃だったのは、異なる角度の縞模様を重ねて被験者に提示し、45度の角度の方に注意を向ける時と135度の縞模様に注意を向ける時のデータから、今その人がどちらに注意を向けているかを解読することにも成功した点です。

何が衝撃的なのか、いまいちピンとこない方もいると思うので、くわしく説明します。

生物の視覚系で、視野の中にどんな傾きの線分(エッジ)があるかを「一次視覚野」という場所が処理していることは、1958年の段階でわかっていました(ヒューベルとウィーゼルというハーバードの研究者が見つけ、1981年にノーベル医学・生理学賞を受賞。業界の超有名人です)。

ただ、それはネコの1個のニューロンレベルで「特定の方位をコードしている」という知識にとどまっていて、「どの神経細胞が、どの情報をコードしているか」は「ニューロンそのものの発火」を見なければわからないという前提もありました。

それを人間の、しかもfMRIというざっくりとした解像度(3mm四方くらいのニューロンが何万個も集まっているような単位)でしか神経活動を捉えられない方法で、視覚体験の「内容」つまりどんな傾きの線分を見ているか・注意を向けているかを解読できたことで、「線分の傾きの情報は、人間の脳のこの場所に表現されている」と主張できることを示したのです。

人間の知覚内容が脳のどこに表現されているかを定量的に明らかにする方法として、「デコーディング」がかなり画期的かつ有効な方法であることを示した点で、とてつもない成果なのです。

さらに、物理的な内容ではなく、人間が注意を向けている対象、つまり人間の「意識している内容」もそこに表現されていて読みとれるという事実は、意識の科学としても重要な発見でした。

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デコーティングが明らかにした「ポケモン野」の存在

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