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生き方

理想ばかりが高くなる「恋人と母親を混同する男性」の悲劇

加藤諦三(早稲田大学名誉教授、元ハーヴァード大学ライシャワー研究所客員研究員)

2020年06月28日 公開 2023年07月26日 更新

 

母親への愛情欲求が満たされないままに育って起こること

たとえば母親との関係で愛情欲求が満たされていないまま大人になった男性のことを考えてみよう。

彼が恋をしたとする。彼は恋人に求めることのできることだけを恋人に求めるだろうか。

決してそうではあるまい。むしろ彼は恋人に求めるべきことを求めるよりも、母親に求めるべきことを恋人に求めるに違いない。

彼は恋人を守ろうとするよりも、守ってもらおうとする。彼は母親との関係で必要な保護をされていなかったのである。

彼は恋人を幸せにするためにいろいろ努力することはしない。しかし何から何まで恋人に求め、何でもかんでも恋人にしてもらおうとする。

それにもかかわらず彼は、自分が恋人に求めることが本来おかしいことまで恋人に求めているとは思っていない。そしてそれが満たされなければ、「冷たい」とすねる。

男性の場合、母親への愛情欲求が満たされないまま育った人は、恋人を愛することは大変難しい。

相手が恋人としてほぼ理想的であっても「冷たい」と不服になる。母親への愛情欲求が不満な男性は、また母親から心理的になかなかはなれられない。

そして自分の母親がけなされることを喜ばない。現実の母親を理想の母親と思いたがるケースがある。

つまり「冷たい」のは母親で、暖かいのは恋人なのに、恋人を冷たいと非難する。非難するばかりではなく本気でそう思っていることが多い。

私が親子関係が人間関係できわめて重要だと思う理由の一つは、それがスタートだからである。

親子関係で満たされるべきものが満たされた人は友達ともうまくいく。そうしてそれは恋人とうまくいく基礎になっていく。

そのように他人と協力でき、親密になる能力をもった人は、会社のなかでも人間関係はうまくいく。

今述べたごとく、母親との関係で愛情欲求が満たされていない男性は、恋人の精一杯の愛情にも不満となり、もっともっととしつこく迫り、さらにそれでも不満になる。

あまりの要求がましさに恋人は逃げていく、ということになる。そこでそのような人は絶対の理想的愛を説くようになる。

大人になった自分に残る幼児性がそうさせているとは気づかない。

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報酬としての愛には意味がない

著者紹介

加藤諦三(かとう・たいぞう)

早稲田大学名誉教授、元ハーヴァード大学ライシャワー研究所客員研究員

1938年、東京生まれ。東京大学教養学部教養学科を経て、同大学院社会学研究科修士課程を修了。1973年以来、度々、ハーヴァード大学研究員を務める。現在、早稲田大学名誉教授、日本精神衛生学会顧問、ニッポン放送系列ラジオ番組「テレフォン人生相談」は半世紀ものあいだレギュラーパーソナリティを務める。

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