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生き方

理想ばかりが高くなる「恋人と母親を混同する男性」の悲劇

加藤諦三(早稲田大学名誉教授、元ハーヴァード大学ライシャワー研究所客員研究員)

2020年06月28日 公開 2023年07月26日 更新

 

良い恋人の条件とは「対極的な人」

それでは良い恋人の条件とは何だろうか。

例えば、彼女が「男はやっぱり社会で活躍した方がいいわ」と言う。そんな時、男のなかには「もし活躍できなかったら」と不安になる人もいる。

しかし、もし彼女が自己実現している女性なら、途中で社会的に男が挫折しても、笑って、べつの生き方をはじめれば、それをまた素晴らしい人生と感じてくれるはずである。

たとえ社会的に挫折しても、あなたを素晴らしいと思う気持ちには変わりはない。彼女はあなたの恋人でありつづけるだろう。

男が社会的に活躍することを価値としながらも、活躍することに失敗したあなたを受け入れ、そしてそれでもあなたの恋人でいたことを喜べるのが、自己実現した恋人である。

恋愛をしはじめた時、誰だって感情的にたかぶっている。ことにお互いの恋心を確認しあう時期などはその興奮は大変なものであろう。

だがその時、感情の高揚で、「一週間全然寝られませんでした」とか、「昨夜もそのまえも、あなたのことを考えて一睡もできませんでした」などという人は、自己実現しているタイプでない可能性の方が強い。

感情が高揚しながらも、熟睡できるというのが自己実現の性質なのである。

自分の存在がカーッと熱くなるほど高揚していながら、それでも熟睡できるという、ちょっと考えると矛盾しているようなことができるのが自己実現のもっている人格統合の機能なのである。

ところが、依存心の強い人などは、恋人から「あなたのことを考えて、とうとう一睡もできませんでした」などと言われると、すぐに喜んでしまう。

そして今度は喜びのあまり、こちらが興奮して不眠症になってしまう。恋心でやせほそる、などというのも生産的に生きていない証拠であろう。

そのような恋はやがて男と女の泥沼にはいり込み、お互いに嫉妬に苦しむことになるのがおちである。

これで弱点は弱点であり、望ましいものではないけれど、自己実現している人は弱点のあるあなたに満足するということが分かるであろう。

私達の自我確立にとって、自己実現タイプの人間と付き合うことは必要なことである。

自分が生産的に生きられていないと思う人ほど、生産的に生きている人との接触を求めなければならないのである。

ところが実際には、神経症的な人は、自己実現している人を避けて、同じ神経症的な人と付き合ってしまう。

自分で自分を受け入れられない人こそ、自己受容の人と付き合う必要があるのに、実際には逆になる。自己受容の人にしか、他者受容は難しい。

非生産的に生きている人は、自分の本質的な価値が脅かされるのを避けるために、同じく非生産的な人と一緒になるというあやまちをおかしてしまうのである。

【著者紹介】加藤諦三(かとう・たいぞう)
1938年、東京生まれ。東京大学教養学部教養学科を経て、同大学院社会学研究科修士課程を修了。1973年以来、度々、ハーヴァード大学研究員を務める。現在、早稲田大学名誉教授、日本精神衛生学会顧問、ニッポン放送系列ラジオ番組「テレフォン人生相談」は半世紀ものあいだレギュラーパーソナリティを務める。

 

著者紹介

加藤諦三(かとう・たいぞう)

早稲田大学名誉教授、元ハーヴァード大学ライシャワー研究所客員研究員

1938年、東京生まれ。東京大学教養学部教養学科を経て、同大学院社会学研究科修士課程を修了。1973年以来、度々、ハーヴァード大学研究員を務める。現在、早稲田大学名誉教授、日本精神衛生学会顧問、ニッポン放送系列ラジオ番組「テレフォン人生相談」は半世紀ものあいだレギュラーパーソナリティを務める。

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