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「常に不機嫌で怒っている上司」が部下に隠している“心の底の劣等感”

石川幹人(明治大学教授)

2020年06月03日 公開 2022年08月01日 更新

 

ルーツは狩猟採集時代にあり?

怒りんぼ属は、自分の意にそぐわない人に対して怒りを見せることで、自分に従わせようとします。これは、先史時代では、集団の掟(おきて)に従わない人に対する有効な手段でした。

狩猟採集をしていたころ、ある時期に実をつける果実は貴重な食料でした。大きく熟したときまで待って、一斉にお祭りのようにして食べたのでしょう。

ところが、だれかがその実が小さい間に食べてしまうと、食料が激減してしまいます。そこで、大きくなるまで皆で食べずに我慢するという集団の掟が築かれます。

その集団の掟は、どのように守られたのでしょうか。掟を認識していない若者がその実を早く食べてしまうと、集団のリーダー格の人に怒られたでしょう。

怒りを向けられた若者はおびえ、「これはたいへん」と掟を理解し、すぐさま謝って掟に従ったにちがいありません。怒りとそれに対するおびえは、集団のルールを維持する感情的な仕組みだったのです。

しかし、現在の組織では、ルールはおよそ明文化されています。明文化されていないルールについては、職場でのコミュニケーションによって明朗に確立していくものです。

そしてルール破りの防止は、人事査定などによっておこなわれます。もはや、怒りやおびえの感情が登場する余地はありません。

では、なぜ怒りんぼ属が存在するのでしょうか。それはおもに、劣等感を隠し、上司としての威厳を示そうとするからです。部下に明文化されていないルールを徹底する場合、ルールの有効性を示し、合理的に説得しなければなりません。

その理性にもとづく説得に自信がないとき、てっとり早く「怒り」が登場します。相手がおびえれば言い返せなくなり、説得が必要なくなるからです。

昔は、集団のリーダーとして、怒りんぼ属が一定の役割を果たしていました。しかし、現在の法によって管理される社会では、もはやその役割は果たせなくなっています。

怒りの感情の本来の必要性が薄らいでいるなかで、怒りんぼ属はその感情の誤った使い方をしているのです。怒りんぼ属は、リーダーとして有害でもあるので、早めの配置転換が必要です。

 

もし自分が「怒りんぼ属」だったら

自分で怒りんぼ属と自覚しているなら、ある程度は対処が可能です。

まず、今チームに与えられている仕事が、あなた自身「得意かどうか」を自問自答してみてください。もし得意と考えているならば、あなたが怒りを向ける人は、「あなたのようにはうまくできない人」でしょう。

あなたは、その人がうまくやれていないことが「歯がゆい」のです。イライラせずに、その人が成長できる方法を考えてください。

また、あなたとは異なる方法で仕事をする人に対して、イライラしているのかもしれません。その場合は、よくコミュニケーションをとって、方法の良し悪しを共有化しましょう。

意見がまとまらない場合は、「このチームにいる間はこちらの方法でやろう」と、理性的に従ってもらう手続きが妥当になります。

逆に、あなたが仕事を不得意と考えているならば、あなたは怒りを表明することで「不得意さ」を隠そうとしている可能性が高いです。上昇志向があると、なおさら「不得意さをさらしてはいけない」と思いがちになりますが、それは違います。

むしろ、「不得意であるのにチームの協力を引き出せる有能なメンバー」となったほうが、将来の昇進にプラスになります。仕事が不得意なあなたが、仕事の進め方を怒りにまかせて押し通しては、失敗が目に見えています。

ここは、不得意さを表明して、協力を求めるのがいいでしょう。「よくわからないけど、どう思う?」などと、ほかのメンバーの意見を尊重して、仕事の方向性を模索しましょう。

あなたがリーダーで、チームの協力がうまくいって仕事が成功したならば、メンバーに報酬が公平に行きわたることを確認し、明瞭に感謝をしなければなりません。メンバー間の嫉妬など、成功したがゆえに生じる問題も認識する必要があります。

以上のようなコミュニケーションの過程が面倒だと思う方は、面倒がゆえに、手軽な「怒り」を使っているにちがいありません。管理職にならないほうが、人生を楽しめるのではないでしょうか。

 

「怒りんぼ属」とうまくつきあうには?

怒りんぼ属が管理職につくと、部下はたいへんです。チームの士気も低下します。企業内の組織運営では、そのような人事配置がされないように工夫が必要です。

怒りんぼ属は通常、部下に対しては怒っていますが、その上の上司に対しては従順な管理職を演じて取り入っています。そのため、上司は「使えるやつ」と誤解していることもあり、人事配置の改善が図られにくくなっています。

トップダウンの人事ばかりが先行すると、怒りんぼ属問題は解決されないので、人事部門が現場の意見を聴取して、ボトムアップの人事を組み合わせる必要があります。最近では、パワーハラスメント対応部門が社員の申し出を受けて、解決を図る企業も多くなっています。

怒りんぼ属に対して部下から問題を指摘しても、ほとんど改善しません。間接部門を利用しながら、怒りんぼ属の自覚を待つのが得策です。間接部門のない中小企業の場合は、社内外に相談できる人を探しましょう。いつまでも改善されなければ、その企業の将来は暗いので、転職を考えましょう。

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「叱る」と「怒る」は別もの

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