拡大が止まらない「所得格差」…カール・マルクスが大著に込めた“願い”
2021年04月20日 公開 2022年10月06日 更新
「平等な社会」というマルクスの願いとピケティの答え
資本論は直接的にマルクスの思想を表現しているものではなく、あくまでも資本の原理を解説したものです。それでも、マルクスの心は投影されています。
例えば、資本家と労働者は法的には平等で、労働の買い手と売り手に過ぎず、労働者は一定時間の労働力を超えて自分を売り渡してはいけない。労働者が奴隷ではなく自由人であるためには、労働力を売り渡すことがあっても、それに対する自分の所有権は放棄してはいけない、ということが語られます。
マルクスは資本主義社会の構造を解きながらも、平等な社会への願いを持っているだろうことが推察されます。資本論には詳しくは描かれていませんが、その解決案は、資本を解体して世の中のものを共有財産化していこうという方向性が示されていきます。
資本主義のルールに基づいてこの問題を突き詰めて考えたのは、現代の経済学者トマ・ピケティでしょう。
ピケティは『21世紀の資本』の中で、富の不平等に対する解決策として、収入ではなく資産を多く持っている人ほど税率が上がる「累進資本税」を提言しました。資産というストックに税がかかることから、富の不平等が起こりやすい資本主義の行き過ぎを抑制しようという考え方だと思います。
マルクスの考えにせよ、ピケティの提案にせよ、資本を持つ多様な人に影響があることから、簡単には実現できないだろうと推察されます。ただ、自由と平等をうたう民主主義の理想にとって障害となるのが、不平等の拡大であることは違和感なく受け止められることでもあります。
世界をよりよくしようという願いは、これからも様々な事業家や学者や思想家により追求されていくでしょう。近年、持続可能な社会を志向するSDGsや、階層の無い組織と言われるティール組織のような新しい考え方も提起されています。
幸福を感じる人が多く、フェアで希望に満ちた社会を求める願いは普遍的なものです。私たちはいまだ答えに到達していませんが、現代社会が抱える重要な課題として、考え続けるべきテーマです。
『資本論』は論理構成の美しさが突出した名作でもあります。資本を通じた人と人の結びつきは誰にとっても関わりがあるはずです。身のまわりの組織のより良い仕組みを考えるためのきっかけとしても、有意義な読書体験になるでしょう。