スマホとゲームに向き合う時間が劇的に増えている今。親と子が、子ども同士が、リアルに顔を見合わせて共鳴し合う経験は減っていると言われています。
その中で人間関係をうまく築くために最も必要なのは「共感力」、カギをにぎるのがミラーニューロンであると、黒川伊保子氏は説きます。
人づきあいに必要な力を子どもに育むために、親はどのような接し方をしていけばいいのでしょうか。
1男の母である一方で、脳と言語の研究を始め、独自のマーケティング論を確立した感性分析の第一人者でもある黒川氏が脳科学の観点からご紹介します。
※本稿は『PHPのびのび子育て』(2021年6月号)より転載したものです
親のコミュニケーション力がカギ!
想像してみてください。「こうしたい」「これはいや」「心が痛い」をうまくことばにできない。なのに、恐い顔をした家族に、力ずくで何かを強制される……そんな事態に陥ったら、大人だって暴れたくなるはず。
一方で、ことばは通じなくても、せめて一緒に悲しんでくれたら、「わかってもらえた」と安心して、相手に従えるのではないでしょうか?
そう、「暴れる、泣く」はしつけの問題ではなく、コミュニケーションの問題なのです。気持ちをことばにできないストレス、思いをわかってもらえないストレス。言語習得の道半ばにある幼子は、それらをずっと抱えています。
また、脳は入力してもらわなかったことは出力できません。「思いやり」をもらわなければ、「思いやり」のある人には育たない。親のコミュニケーション・マナーが、そのまま子どものそれになります。子どものコミュニケーション力を上げるには、親のコミュニケーション技法を見直す必要があります。
コミュニケーションの基礎は共感力!…子は親の表情、所作を移しとる
人間関係をうまく築くために、もっとも必要なのは「共感力」。そのカギをにぎるのが、ミラーニューロンです。
人には、ミラーニューロン(鏡の脳細胞)を使って、目の前の人の表情や所作を鏡に映すように移しとる能力があります。これによって、心を通わせることができるのです。
母親が悲しい顔をすれば、子も悲しい顔になり、ひいては悲しい気持ちになる。これこそが「共感」です。赤ちゃんは、ことばの獲得や、歩く・物をつかむなど、生きるために必要な所作を獲得するために、この能力を人生最大に持っています。なんと、イルミネーションの点滅に合わせて口をパクパクしたりするほどに、周囲への共鳴力があるのです。