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日本の結婚制度に潜む「不条理なバグ」…これでは多様な家族に対応できない

中井治郎(社会学者)

2022年01月27日 公開 2024年12月16日 更新

日本の結婚制度に潜む「不条理なバグ」…これでは多様な家族に対応できない

夫婦同氏制が現存するのは、世界で唯一日本だけ――。そんな中、妻の姓になることを選んだ社会学者の中井治郎氏。本記事では、現存する日本の結婚や戸籍制度の「不合理さ」について語る。

※本稿は、中井治郎『日本のふしぎな夫婦同姓』(PHP新書)より一部抜粋・編集したものです。

 

結婚と戸籍の間の「不条理なバグ」?

結婚改姓した1人の日本人として「いや、やっぱりこれは無理だって」と思うことは多い。自分の困りごとに頭を抱えながら日本の結婚制度や戸籍制度について調べていくなかで、その不条理な「バグ」に驚き、呆れることは珍しくなかった。

僕が驚いた結婚や戸籍制度のバグには、たとえば国際結婚にまつわるものがある。現在の日本の法的な結婚とは、2人がどちらかの氏に束ねられて、その氏で新しい戸籍を作ることである。そして出来上がった新しい戸籍は、親子や婚姻関係など、家族との関係からその人を証明するものである。

しかし、この国の戸籍制度はあくまで日本人を登録し、証明するものである。つまり日本人しか登録されないのだ。そのため外国人と結婚すると、その外国人配偶者は戸籍には登録されない。つまり、国際結婚をする日本人が作る新しい戸籍には、その人、1人しか登録されないのだ。

戸籍は誰かと家族になる際に作られ、家族との関係からその人を証明するものであるはずだ。しかし、この国際結婚で作成されるたった1人だけの戸籍は、いったい何を登録し、何を証明しているのか。そう考えてみると何とも皮肉である。

また現在、日本は夫婦同氏制を採用している。そのため、どちらも氏を変えないままの結婚は基本的に許されない。「一家一氏一籍」の原則通り、氏が違う者は同じ戸籍に入れないからである。戸籍制度は日本特有の制度であると述べたが、この戸籍制度こそが、「いまとなってはわが国以外にない」夫婦同氏制が維持される大きな理由の1つなのである。

しかし、ここで重大なバグが発生する。いや、バグというよりは「ハック」といえるかもしれない。違う氏の人間は同じ戸籍に入れない。だから別姓での結婚はできない。しかし、外国人はそもそも、戸籍に登録されないのだ。そのため、外国人と結婚するならば2人とも氏を変えない別姓での結婚が法的に可能となるのである。

バグなのかハックなのか分からないが、とにかく「勘弁してくれよ……」というのが率直な感想である。端的にいって不平等であり、不条理である。どちらかが外国人ならば認められた結婚が、「日本人同士だから」という理由で認められないのだ。日本の制度なのに!

現在、わが国における国際結婚の割合は4%程度であるという。これは奇しくも結婚の際に妻の苗字に変える妻氏婚の割合とほぼ同じである。どちらも取るに足らない「例外」ということなのだろうか?

 

重大な戸籍のバグは、なぜ生まれ、今日まで続いたか?

旧民法の家制度において、個人は家に属する存在とされ、氏はその家の名称であった。結婚が「入籍」であった時代は、嫁入りも婿入りも結婚は先方の「家に入る」ことであった。

そもそも結婚をするにも、戸主の同意が必要であった時代である。また、その人がどの家に属しているかで、扶養義務や相続権なども大きく変わった。そのような制度だからこそ、それぞれがどの家に属しているのかを示す親子同氏・夫婦同氏の原則には重要な法的意味があったのだ。

だが、1947年の民法改正によって家制度は廃止され、氏は家の名称ではなく個人の名称となった。結婚の際に戸主の同意を得る必要もなければ、氏の異同による扶養義務や相続権の法的な序列もない。もはや氏が同じかどうかは法的な意味を持っていないのである。

しかし、この国の制度はなぜか「家族は同じ氏であること」にこだわった。その結果、国民の生活の実態とも乖離し、改姓に伴う不利益と不平等や、国際結婚の「例外」など、さまざまな不整合や矛盾を生むことになったのである。

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現在の社会にまで残る家制度の痕跡

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