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かつて使い道がなかった「ゴム」...借金まみれでも実用化に尽くした発明家

大宮理(河合塾講師)

2022年04月04日 公開

 

新素材ゴムのブームが到来

1839年の寒い冬の日の逸話には、さまざまなものがあります。グッドイヤーが周囲からバカにされて、怒ってストーブに硫黄と生ゴムを投げつけたという話、暖炉のそばでうたた寝して生ゴムと硫黄の瓶を手で払って混ぜた話、ストーブの上にゴムと硫黄を落としてしまった話など、いずれも、生ゴムと硫黄を加熱したことが共通です。生ゴムに硫黄を少量加えて加熱することでよく弾む性質が表れ、耐久性も劇的に向上することを発見しました。これを加硫法といいます。

この加硫法の発明で、ゴムは夏でも冬でも使えるようになったのです。弾性や耐久性が向上して実用化が可能になって、たちまち世界中で新素材ゴムのブームが到来しました。

チャールズの弟ネルソン・グッドイヤーは、25%以上の硫黄を加えて加硫ゴムにしたものは黒くなって非常に硬くなるので、これをエボナイトという樹脂として実用化しました。「エボニー」(「黒檀」という意味)+接尾辞「〜ite」(「〜石」という意味)に由来します。ボーリングの球や楽器のマウスピース、万年筆などに用いられています。

 

ゴムを化学する

ゴムは、ポリイソプレンといわれる非常に長い紐状の分子からできています。巨大な紐のような分子を、高分子化合物(重合体=ポリマー)といいます。小学校の校庭に50人の子供が手をつないで一列になっているのが、ポリマーの分子のイメージです。この列が20列くらい集まっていたとします。

それぞれの子供が適当に動こうとしても、手をつないでいるので、全体は緩慢な動きになりますね。温度が上がると子供たちが激しく動くようになり、長い列が動くようになります。これが流動性のある状態です。ゴムやプラスチックなどの独特のキャラクター、加熱するとやわらかくなる性質=熱可塑性という性質の源です。加熱により流動性が生じて変形可能になるのです。

実際のゴムやプラスチックは、子供にあたる基本ユニットがゴムならば―C5 H8―、レジ袋のポリエチレンなら―CH2 CH2―で、これらがそれぞれ何千個から1万個くらい連結した長い分子になっているのです。

ゴムを構成する巨大な分子ポリイソプレンには2つの構造があり、1つはとぐろを巻いたような紐になります。さらに、これらの紐どうしが電気コードのように絡まった状態をつくり、引っ張ると紐が伸び、力が抜けると、もとのこんがらかった状態になろうとします。これが伸びたり縮んだりするゴムになります。

もう1つは、ジグザグの構造でまっすぐに伸びた棒のような形の分子で、集まると束のようになり、ゴムと違って硬い構造になります。これはグッタペルカ(ガタパーチャ)といい、カメラの貼り革やゴルフボールの外皮などに使われます。

 

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