隠して先送りより、出して解決
上司からの叱責を恐れるあまり、部下が失敗を隠蔽する。あるいは、公になるとマスメディアが大騒ぎして大問題になるので、組織ぐるみで不都合な真実は隠し、情報公開しようとしない……。ここ数年、このようなケースが増えている。
個人であれ、組織であれ、非を認め謝罪する行為は好きではないだろう。
正直なところ、私も、自分が犯した失敗ですら公表し陳謝するのは嫌なものだが、「パーソナリティやゲスト出演者が不穏当な発言をした」「番組スタッフがケアレスミスでCMを出し間違えた」など、第三者が起こしたミスによって謝罪させられるときは、本当に嫌なものだ。
しかし、隠蔽していた失敗が後になって発覚すると、ほぼ確実に肥大化する。一度、頭を下げて謝罪し、始末書を提出しておけば済んだものが、部や課といった組織を巻き込み、場合によっては、原発事故での東京電力のように企業の存亡に関わるケースにまで発展する可能性がある。
そうならないために、肝に銘じておいていただきたいのが、「隠して先送りより、出して解決」という言葉である。
言い換えれば、隠していたことで大火事になってしまう前に、ボヤの段階で火を消すということだ。
これは、日々、ただでさえルーチンワークに追われ、他にもさまざまな企画にたずさわっている人間からすると、歩みを止めるどころか一歩下がった感じを受けるかもしれない。
しかし、何もしないで動かないままでいると、10歩も20歩も後退を余儀なくされることになる。今の仕事を先送りせざるを得ない状態に追い込まれないためにも、「出して解決」することが重要になるのだ。
私の例で言えば、パーソナリティやゲストが不穏当な発言をしてしまった場合は、番組内で謝罪するようにしている。その余裕がない場合は、放送終了後、ただちに編成部や営業部と連絡を取り合い、対策を講じるようにしている。
CM事故が発生した場合も、同様に、事故報告書を作成し、関係各所に連絡するほか、どこかの時間で事故を起こしてしまったCMを再放送できないかなど、問題が大きくなる前に、できることはすべてやるようにしている。
もちろん、これらのことは、私だけでなく勤務する放送局で周知徹底されていることだが、別の失敗に関しても、情報公開し対策に乗り出すタイミングが早ければ早いほど、すぐに鎮静化しやすく、次の仕事に移りやすくもなる。
近頃、キヤノン電子など先進的な企業では、「どんな失敗でも隠さず報告すれば、マイナス評価にはしない」というところが増えている。
「ミスをして謝罪すると責任を認めたことになるから謝らない」が常識とされるアメリカですら、ハーバード大学の関連病院などでは、「ミスは開示して謝罪するほうが、訴訟を減らせる」という対応マニュアルを採用しているほどだ。
また、明確に失敗とわかるケースだけでなく、上司などと議論し、自分のほうが間違っていたと感じた場合なども、「すみません、私の考えが間違っていました」と率直に認めたほうが、「彼(彼女)は素直でいい」という評価につながるばかりか、あなた自身も気持ちを切り替えて次の仕事に集中できるようになる。