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石破茂 日本を、取り戻す。

石破茂

2013年06月28日 公開 2021年01月13日 更新

アベノミクスの意義と効果

安倍総理が「アベノミクス」という言葉を自らおっしゃったことはないはずなのですが、この造語はあっという間に広がって定着してしまったようです。

連日マスコミに取り上げられていますが、改めて言えば安倍内閣の経済政策は、大胆な金融緩和、効率的な財政出動、抜本的な成長戦略の3つで日本の経済を再生させていく、「三本の矢」と名づけられた戦略です。

従来「金融を緩和してもたいした効果はない」と言われてきましたが、デフレを脱却するとの断固たる意志を持って大胆な緩和を行った結果、いまのところ株は上がり、円は下がっています。

もちろん、物価上昇それ自体が目的であるはずがなく、物価と賃金が硬直化していて動かない状況に、金融緩和という手段でテコ入れをするということです。

1998年から2011年までの統計を見ると、給与所得者の賃金は2割減っている一方で、企業の収益は6割上がっています。給与が上がらなければ国民全体の購買力が上がるはずがありません。

だからこそ安倍総理は、経団連に対して異例の「給与引き上げのお願い」をしたわけです。

今般、給与を上げた会社の税金を下げるという措置を講じましたが、それは給与を上げた分を税金で肩代わりするに等しいので単なる呼び水であり、抜本的な解決にはなりません。

労働者の賃金が下がったのは、簡単に言えば、かつて日本にしかできなかったことが中国でもミャンマーでもインドでもできるようになったからです。

企画開発、部品生産、組み立て、販売、アフターサービスという商品流通の5段階のうち、一番利益率が高いのが企画開発とアフターサービス、一番利益率の低いのは組み立てと言われています。

「ものづくり日本」が高度経済成長期に主に稼いでいたのはこの組み立て過程ですが、経済が成長すれば人件費は高くなりますから、その部分が外国に取られてしまったわけです。

しかしこれはある意味当たり前のことで、バブルの狂騒があったとはいえ、組み立てではなく利益率の高い企画開発やアフターサービスで稼ぎ出すための構造改革を企業が怠ってきたのではないか、と言われても仕方ないのではないでしょうか。

バブル後処理を受けて企業マインドとして設備投資や給与に利益を回しにくくなったというのは理解はできますが、それもまたデフレの一因だったのであり、

「三本の矢」つまり成長戦略を成功させるためには、ビジネス主体たる企業の活躍、そしてその果実を被雇用者たる国民にあまねく還元することが絶対に必要です。

また、日本に1500兆円あるといわれる個人金融資産の6割は60歳以上が持っており、2割は50歳代が持っています。20代、30代、40代の方々は、ほとんど持っていないということです。

60代以上の方々がなぜお金を使えないかといえば、長寿社会を前提として医療や介護に漠然と不安を覚えているからです。

たとえば、ヨーロッパの多くの国では退職時が一番金持ちで、亡くなるときにはほとんど預貯金を使い果たします。しかし日本では退職時から亡くなるときまで、持っているお金の残高がほとんど変わらないのです。

この60代以上の方々に安心して消費をしていただくためにも、安定的な財源で支える効率的な社会保障制度が必要なのです。

いま相続を受ける側の平均年齢は67歳だそうで、いわゆる「老老相続」が起こっています。これを孫の世代に回すために、先般の税制改正では孫の学費に使う場合には相続税を軽減することを打ち出しました。

日本の「ものづくり」は優秀ですが、その高い品質に見合った付加価値を創造できているかというと、まだまだ疑問があります。

日本がどんなに頑張っても貿易黒字を出せない国というのは、中国でもインドでもアメリカでもなく、イタリアとフランスなのです。理由は簡単で、ワインやチーズなどの食料品とファッションアイテムのブランディング・高付加価値化が圧倒的だからです。

このように、「三本目の矢」を成功させるには、日本の産業構造や所得の構造を変えていくことが必要なのです。

 

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