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実践からあみだされた私のマーケティング手法「卓越の戦略」

ジェイ・エイブラハム(マーケティング・コンサルタント)

2014年01月15日 公開 2022年07月11日 更新

 《『PHPビジネスレビュー松下幸之助塾』2014年1・2月号Vol.15 巻頭特別インタビュー より》

 

クライアントを幸せにせよ!
――アメリカのカリスマ経営コンサルタントが語る商売の本質 

<聞き手:渡邊祐介(本誌編集長)/構成:阿部久美子/写真撮影:永井 浩>

 

経験が育んだ私のマーケティング手法

――エイブラハムさんはアメリカを代表するコンサルタントとしてご活躍です。ただし、あなたのマーケティング論は大学のビジネススクールでの講義と違った、ほとんどご自身の体験から培われてきたものと伺っています。

 私は18歳のときに結婚し、20歳のときまでに子どもが2人できました。ビジネススクールどころか、そもそも高等教育を受けていません。基本的に私は、定期的に決まったサラリーをもらうという仕事をしてきませんでした。だれもそういう仕事を私にくれなかったのです。

 おのずと私の仕事のスタイルは当初から成果報酬という形が主となったのです。企業家が私を信頼して販売を依頼する。実績が上がれば、そのうちの何パーセントをもらうという形です。

 そうした業種を問わずセールスを請け負うというのは、日本ではあまりなじみがないかもしれませんが、私はさまざまな分野の仕事をどんどんするようになりました。これまでだれもやってきたことのないことをやろうとしている情熱的な企業家に常に惹きつけられて、多くの方と仕事をともにしてきたのです。

 ありがたいことに、成果報酬の仕事をしていますと1つの会社に縛られず、工夫次第で数社と掛け持ちで仕事ができました。ずっと1つの業界にいては、今のような仕事にはなっていなかったでしょう。そう考えますとご指摘のとおり、多様なビジネスの実践や経験が現在の仕事に役立っているのでしょう。

――多くの企業家たちからの直伝というものでしょうか。

 若いころ、特に夢中で仕事をしているときは、自分が何を学ぶ機会に直面しているかに気がつかないものですね。

 私が最初のころ働いた会社に、ある農業関係の会社、そして建築機材の会社がありました。いずれも、普通の会社です。ただ農業にしても建築業にしても、季節によって好不況のばらつきがありました。収穫が年に1回しかないから収入があるのは3カ月だけ、建築業に関しても、夏だけ景気がよい。

 興味深いのは、私が働いていたそれらの会社は、農業にしろ、建築会社にしろ、売上がいちばん多いときに集中的に投資をしていたことです。これらの仕事からは、“物事は柔軟に考えるべきだ”ということを学びました。

 次はクレジットカードのアメリカン・エキスプレスです。私が働いていた当時は、分割払いなどは認められていない時期で、一括払いしかない。富裕層だけのカードでした。

 私は回収の部署にいました。私の顧客である豊かな人たちは、得てして非常にわがままで、期限どおりに払わない人が意外と多い。そこを、期限までにきちんと払ってもらうために回収部としてはどんなアプローチをすべきかとか、どんな話し方をするかとか、市場の心理学を学びながら、作戦を練る必要がありました。

 こうした富裕層に対して、「お金を払えよ」などと叫んで脅したりすることはできません。常に敬意を払いつつ、心理学みたいなものを駆使して、うまく動かしてあげて支払いをしてもらう。そうした顧客の心理の機微を学びました。

――仕事を通じて財務や心理学を学んだのですね。

 その次に広告業に携わりました。インディアナポリスのラジオ局の広告の営業です。ラジオ局にとっていちばんよい時間帯のことはご存じですか。

 勤め人たちが家から出勤するときと、仕事場から帰宅するとき。そしてランチタイムと車に乗っている時間です。このようなときに広告を流したい。逆にあまりよくない時間帯は夜間です。だれもがもう帰宅している時間帯に広告を出したい企業はありません。そこで私は、売れない夜の時間帯を売るために、パッケージを考えました。

 売れる時間だけを買わせるのではなくて、売れない時間も一緒に買ってもらったわけです。

――なるほど、リスクが減りますね。

 それだけでは終わりません。ラジオでは60秒のコマーシャルに関して、ラジオ局自身に別に費用が発生するわけではありませんね。ただ、そこにコマーシャル代としての500ドルなら500ドルという価値があると認識しているだけ。

 ラジオ局では必要な製品とかサービスをその価値と相殺して取引できると考えたのです。たとえば、ラジオ局の営業担当がクライアントをランチに連れて行く場合、3、4回分のランチ代は広告枠から払ってもらうというようにしました。なぜならば、そのレストランと取引をしていたからです。車を借りる場合もディーラーと交渉して、車を使用する権利を広告枠と交換したわけです。ですから、ラジオ局にとって営業の諸費用はゼロに近づいた。ただこの事例はお国柄、また業界によって通用するかどうか分かりません。

 しかし、その本質を理解すれば教訓があります。人から見て価値があるものをつくり出すことができれば、購買力を持ったに等しく、このようにコストの軽減にもつながるのです。

 

普通の人が考えない柔軟な思考を学ぶ

――学びを得るにはセンスが必要だと言えますね。一方、エイブラハムさんご自身に非常に影響を与えたビジネスパーソンはいらっしゃいましたか。

 いろいろな業界向けの化学製品をつくっている企業家がいました。自動車の内装外装を磨くための薬品、消費者向けの害虫駆除剤、関節炎の薬などさまざまです。

☆本サイトの記事は、雑誌掲載記事の冒頭部分を抜粋したものです。

 

<掲載誌紹介>

2014年1・2月号Vol.15

1・2月号の特集は「成功とは何か」。
 “成功”といっても、人によって、あるいは状況によって、さまざまな考え方、とらえ方、形態があるといえよう。松下幸之助は生前、「成功するまで続けて成功」「事業としての成功とは別に、人間としての成功を追求する」「何ごとにおいても、三度つづけて成功したら、それはまことに危険」など、いろいろな“成功観”を持っていた。
 本特集では、練達の経営者や一流のアスリート、社会企業家などにそれぞれの成功観について語っていただいた。
 そのほか、アメリカのカリスマ経営コンサルタントへのインタビューや、最終回を迎えた人気連載も、ぜひお読みいただきたい。

 

 

BN

著者紹介

ジェイ・エイブラハム(Jay Abraham)

マーケティング・コンサルタント

1949年生まれ。30年以上におよぶ豊富な経験から、「卓越の戦略」(Strategy of Preeminence)と呼ばれるマーケティング哲学を提唱。そのコンサルティングのクライアントはIBM、シティバンク、マイクロソフトといった世界的な大企業から、街のクリーニング店、歯科医、税理士などの中小零細企業に至るまで、業種を問わず多岐にわたる。全米をはじめ世界中にファンを持つ。カリフォルニア州バロスヴェルデスで妻子とともに暮らしている。著書に『ハイパワー・マーケティング』(インデックス・コミュニケーションズ)、『クラッシュ・マーケティング』(実業之日本社)などがある。

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