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柳田邦男 人生はうまくいかなくてもともと

2014年03月13日 公開

柳田邦男(ノンフィクション作家)

絵本は子どもを成長させ、大人も潤す

 

親に絵本を読んでもらった幼児体験は自分が子育てをする時にリアルによみがえってきます。
子どもは、愛されて育つことが大事なことです。

 

ケータイとパソコン

 - 柳田さんは子どもたちに、絵本を読んで聞いてもらう活動もされているそうですね。

 はい、時々ですが。地方に出かけることが多いです。

 この間、私が絵本から学び、そして子どもの心の発達にいかに絵本が大きな影響を与えるかについて気づいてほしいことを簡潔なハンドブックとしてまとめた『みんな、絵本から』(講談社)という本も作りました。子どもの心の専門家のメッセージや読み聞かせをしていて大事な気づきをした母親からの手紙などを、私自身の詩のような簡潔な文章にしてまとめたものです。頁をめくると、左側にメッセージの言葉、右側に私の娘の写真家・石井麻木によるメッセージにふさわしい様々な子どもの写真を挿入するという構成にしてあります。

 - その『みんな、絵本から』の中に、印象的な一節があります。

テレビ、ゲーム、ケータイ、ネットに浸りきり、
生身の人間同士の接触が どんどん少なくなっていく。
幼児用のケータイまでが 派手に宣伝される。
そこに出現しつつあるのは、子供たちの「沈黙の春」だ。

 「沈黙の春」というのは、公害や環境破壊のジャンルで使われた言葉です。

 1960年代はじめに、アメリカで出版され、日本でも翻訳されているレイチェル・カーソンという生物学者の本のタイトルからきています。大量の農薬を使うことによって農業生産性を上げた。その結果、小鳥がいなくなり、昆虫がいなくなり、川の魚がいなくなった。春がきても、小鳥のさえずりも、昆虫の虫の音も聞こえない、これでいいのかと。人類の生存そのものが、危なくなっていると問いかけた本です。

 それが「サイレント・スプリング(沈黙の春)」です。時代のキーワードとして、20世紀を特徴づける非常に重要な言葉だと思っています。

 20世紀の近代科学主義、あるいは技術の発達で、それらがもたらしたものは核戦争の危機であり、環境破壊であり、公害であり、巨大事故であるわけです。

 人類を危機に陥れ、人の命を危うくする。この技術文明がもたらした負の側面が、当時目にはっきりと見えてきたわけです。

 ところが21世紀になると、負の側面は、現代技術のハイテクの分野に広がってきたのですが、それらは目には見えにくいというやっかいなものになっている。それは何かといえば、ケータイ、スマホ、パソコン、ゲーム、テレビといった、メディア社会、あるいは情報社会の中で進行している子どもや若者の心のゆがみです。

 便利で、簡単で、安く買えて、楽しい。ケータイはスマホなどの映像機器に発展し、音楽が聴けるし、映画も見られる。友達と会話もできれば、メールで1日に50人ぐらいの人と簡単にやりとりもできる。居ながらにしてなんでもできる。

 私はケータイを持つことを否定はしません。しないけれども、それに浸りきると、失うものがあることに気づかなければいけない。

 人間は、便利なものに弱いんです。また、依存していきます。だからケータイがないと落ち着かない。

 特に中学生や高校生の女の子は、24時間ケータイが手放せないという依存症が多くなっています。男子も多い。深夜でもブルブルと音が鳴るとぱっと目を覚まし、メールをチェックする。1時間以内に返信をしないと、プッツンされちゃうから。常に強迫心があって。お風呂に入る時もケータイを気にして、寝る時も常に側に置いておく。知り合いの人の娘さんが高校生で、24時間ケータイから手が離せないほど、ケータイ依存の傾向があまりにもひどいことを聞きました。

 便利で楽しい、これのどこが悪いの? たくさんの友達とメールでコミュニケーションができて、いいじゃないか、という人が多いんです。

 しかし、その便利さゆえに、大きな落とし穴がある。全否定はしません。現代社会からケータイやパソコンがなくなったら、成り立たない世の中になってしまっていますから。

 そんな中、1週間くらい、ノーケータイ、ノーテレビ、ノーゲームっていうのを、実際に学校ぐるみで行っているところがある。

 1週間、テレビをつけない。ゲームもケータイも使わない。最初は何をしていいかがわからずにとまどいますが、時間が経つうちに、家族の会話が多くなり、早寝早起きになっていく。

 時間があるので、今日は何をしようかと家族で話しながら、じゃあ、一緒に本を読もうとか、散歩に行こう、近くの丘に行って山登りをしようとか。家族が行動を共にするようになって、密接な時間が過ぎていく。

 そこで気づくのが、いかに日常生活で親子の会話、兄弟姉妹の会話が欠落していたかということ。それぞれがいかにバーチャルな仮想現実の通信媒体の中で、生活していたかを気づくんですね。

 

ケータイ、スマホ、パソコン、ゲーム、人間は便利なものに弱い。
だからこそ、失うものがあることに気づかなければいけない。

 


<書籍紹介>

悲しみは真の人生の始まり  内面の成長こそ

柳田邦男著

多くの生と死を見つめたノンフィクション作家が、次男の自死に自らのあり方を問い直した心の軌跡。悲しみの中で気づいた絵本のよさを語る。

 

<著者紹介>

柳田邦男(やなぎだ・くにお)ノンフィクション作家

1936年、栃木県生まれ。1960年、東京大学経済学部卒業後、NHKに入社。放送記者として事故や災害の現場を多数取材したことが根幹となり、退社後はノンフィクション作家として執筆活動に専念。1972年、『マッハの恐怖』で第3回大宅壮一ノンフィクション賞。1979年、『ガン回廊の朝』で第1回講談社ノンフィクション賞。1995年、精神を病んで自死した次男の生きた証をたどった『犠牲(サクリファイス)わが息子・脳死の11日』で第43回菊池寛賞。1997年、『脳治療革命の朝』で第59回文藝春秋読者賞など、受賞多数。
最近は心の問題、言葉や絵本についても積極的な活動を展開中。近著に、『言葉が立ち上がる時』『大人が絵本に涙する時』(以上、平凡社)、『僕は9歳のときから死と向きあってきた』『終わらない原発事故と「日本病」』(以上、新潮社)、『新・がん50人の勇気』『「想定外」の罠』(以上、文藝春秋)、『生きる力、絵本の力』(岩波書店)、翻訳絵本に、『ヤクーバとライオンI 勇気』『ヤクーバとライオンⅡ 信頼』(以上、講談社)、『だいじょうぶだよ、ゾウざモん』『でも、わたし生きていくわ』(以上、文渓堂)、第10回日本絵本賞翻訳絵本賞を受賞した『エリカ 奇跡のいのち』(講談社)などがある。



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