PHP松下幸之助塾「リーダーの条件」特集号より
「管理」偏重が日本の組織をダメにする
2015年6月、ホンダが社内公用語を2020年までに英語とする方針を発表した。長く「内向き」と批判された日本企業も、生き残りを賭けて変化を迫られている。在米日本企業のコンサルティングを多く手がけてきたロッシェル・カップ氏は、いまこそ国際化という現実を受け入れ、世界にひらかれた組織づくりを行うべきだと提言する。多様な働き方や価値観が広まる今日、部下のやる気を引き出し、組織を成長に導くために、管理層に求められる能力について聞いた。
取材・構成:野間麻衣子 写真撮影:山口結子
ポジティブ・フィードバックで「事業は人なり」を復活
松下幸之助さんが残した言葉に、「事業は人なり」というものがあります。事業が成功するか否かはすべて人にかかっている、という人材の育成と活用におけるすばらしい考えです。こうした日本の企業風土が世界に誇れる製品を生み出してきたのだと思います。
しかし残念ながら、昨今の長期不況のなかで、必ずしもその考え方が実践されているとはいえません。貴重な財産である人材を酷使し、叱責して追い詰めたり、本人の意向を無視した配置転換でモチベーションを低下させたりするケースが少なからずあります。
最近、アメリカで注目を浴びているのが、従業員のエンゲージメント向上です。エンゲージメントとは、従業員の企業に対する関与の度合いと、仕事に対する感情的なつながりのこと。エンゲージメントが高い社員は、仕事に情熱を抱いており、顧客との関係を深め、自社製品やサービスを刷新する原動力となります。逆に、エンゲージメントが低い社員はやる気がなく、必要最低限のことしかしません。ネガティブな態度で、周囲のやる気を低下させる要因にもなります。
日本企業の管理スタイルが、アメよりもムチを強調する傾向にあるのは問題です。これではエンゲージメントを向上させることはできません。従業員の成果に対して、金銭的な対価を与えることはもちろん有効ですが、何より大切なのがポジティブ・フィードバック、すなわち部下をほめたり、感謝の気持ちを伝えたりすることです。
欧米人に比べると、日本人は言葉で感謝を伝えたり、賞賛したりするのが苦手で、多くの上司は「完璧」なものしかほめない、あるいは「言わなくても分かる」と思いこんでいるように感じます。
私がポジティブ・フィードバックをテーマにセミナーを実施した際、日本人マネジャーたちが「これまで学校や会社で自分がほめられた経験がないから、部下に対してどのように言葉にしてよいか分からない」と話していたのは衝撃的でした。相手の行動に満足しているときには、不満があるときと同様に言葉で表現すべきです。ほめることで、若い部下が抱いている不信感を払拭させることもできます。
「ご苦労さま」のような短い表現でも、何も言わないよりはましですが、効果をより高めるためには、部下が出した成果のどこが、どのようにすばらしかったか、事実に基づいて詳細に指摘し、それが組織、社会にどんな好影響をもたらすか、今後どんな行動をとってほしいかを伝える努力を重ねなければなりません。情熱を持った部下や活気ある職場は、自然に生まれるものではないのです。
具体的なポジティブ・フィードバックを行うためには、マネジャーとして常日頃から部下の行動、チームの動きをつぶさに観察しておくことが不可欠になります。
☆本サイトの記事は、雑誌掲載記事の一部を抜粋したものです。