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金沢から東京・銀座へ カリスマ創業者の後を受け成長する「ぶどうの木」

本康之輔(株式会社ぶどうの木代表)

2018年11月28日 公開 2022年02月17日 更新

「急ハンドル」しないように意識するしかない

経営発表会

――このようなフィロソフィの勉強会は、先代社長のころにもやられていたのですか? 

(本)そうですね。先代社長が『フィロソフィ手帳』を使って、ずっとやっていました。そもそも弊社の『フィロソフィ手帳』は2003年に初版ができました。ちょうどKCCSにいた私のところに父から電話がかかってきて、「何項目か書いてみないか」といわれましたよ。たぶん、自分自身で全部書き上げるのは大変だったからでしょう(笑)。

そして出来上がった初版では、言葉が全部やわらかい。「何々なのではないでしょうか」という表現が多く、言い切り形が少ないんですよ。本来『フィロソフィ手帳』での表現は、「何々なんです」という言い切り形が望ましいと思います。しかし、いきなりそれでは、社員から「アレルギー反応」が出てしまう可能性があった。それを抑えるために、言葉をやわらかくしたのです。

その後、弊社の『フィロソフィ手帳』は、2年に1回ほどリライトしていきました。その間、時間をかけて、社員に対するフィロソフィの勉強会を続けていた。そして、4年ほど前のバージョンからは、本家本元・京セラの『フィロソフィ手帳』での表現そのままという項目が、随分増えてきました。さらに今年(2018年)に出した最新版では、ほぼ直すところがないところまで仕上がりました。それだけ社員の理解が深まったわけですから、とてもうれしいですね。

――社員の皆さんの理解度に応じて、表現まで大きく変わっていくというのは、ユニークです。『フィロソフィ手帳』は生き物なのですね。

(本)それぞれの会社の風土に合わせ、段階と時間を経て、最終形に至れると実感しましたね。その作業を、15年という長い年月をかけ、社長である父とともに共有できたのは、後継者候補が先代からバトンタッチするという視点で考えても、とても意味のあることでした。

先代からのバトンタッチに関して、私は懇意にしているある経営者の方に、「陸上のリレー競争にたとえていえば、前走者と次走者の並走区間は長ければ長いほうがいい」とアドバイスされました。それに加えて別の人からは、「並走区間は直線でしかあり得ない。トラックのカーブを切っているときに並走はしない。直線のところで並走しバトンタッチせよ」。そう言われたのです。その意味合いは「とにかく同じ方向に走りなさい」ということでしたね。

 ところがやってみるとわかるのですが、「同じ方向に走り続ける」のはかなり難しい。実際、先代と私はキャラクターがかなり違うものですから、放っておいてもハンドルを切って、違う方向に走ろうとしてしまうのです。だからこそ、先代の意図や思いを汲んで、意識的に同じ方向に走ろうとしなくてはならない。そうしていれば急ハンドルにならず、会社の目的を大きく変えることなく、社員を戸惑わせずに済むのではないか。そう思います。

――バトンタッチはどのような形で進められていったのですか? 

(本)社長に就任する1年前ごろから、フィロソフィの勉強会の主宰者が私に変わりました。そしてそれが、私にはとてもありがたかった。1年かけて社員の皆に、「次の社長がどんな考え方をしていて、何を大事にするのか、物事を進めていくやり方はどうか」を伝えることができたからです。結果的に、父の意図や思いを汲みつつ、緩やかにハンドルを切ることができているのではないかと、思っています。

私と父である先代社長は、「社員を幸せにしたい」という目的は同じですが、それを成し遂げるためのやり方が異なります。父は創業者らしく、夢やイメージを持つことを大事にしており、「将来的には売上100億円になる。そのときには第2工場ができていて、最新鋭のこんな機械が入っている」など、けっこう大きな風呂敷を広げて、皆を率いるタイプです。会社が「家業」的な経営をしていた時代から働いている社員には、大変響くメッセージでしょう。

しかし私は、そのようなことはあまり語りません。おかげさまで会社も大きくなり、最近は「じわじわと、確実に安定して会社が成長する」ことを望む社員が、昔に比べたら増えているからです。そして、「自分たちの給料はどうなるか」「子どもが成長したとき、どんな働き方ができるのか」など、身近な生活にかかわることを知りたがっています。

そうなったときに、「夢と希望と設備投資」の話だけではなく、確実な利益を残すための「無借金経営」、さらには「労働分配率を高めるための施策」などの話をも、きちんとせねばならないと感じているのです。

――先代社長は天才肌、本社長は実務派タイプなんですね。 

(本)創業者というのは、いわば、星にたとえると恒星だと、私は思っています。エネルギーの塊で、中から噴き出るアイデアや、やりたいことを形にしないと気が済まないタイプの人間で、だからこそ創業したのだと思います。

それに対して後継者はいわばその惑星であって、燃え滾る恒星の周りを規則正しく静かに周っている。血のつながりのある息子だろうと、血縁関係にない者であろうと同じタイプでしょう。創業社長のやり方をずっと見て育ってきていて、自分はそのタイプでないと自覚し、もっと安心・安全を追求したいとか、リスキーなことは避けたいと考えがちです。いい意味ではリアリストであり、ちょっとまじめなところは、後継者のほうが強いと思っています。

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恒星を無理やり押し込めてもいいことはない

著者紹介

本康之輔(もとこうのすけ)

株式会社ぶどうの木代表

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