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金沢から東京・銀座へ カリスマ創業者の後を受け成長する「ぶどうの木」

本康之輔(株式会社ぶどうの木代表)

2018年11月28日 公開 2022年02月17日 更新

恒星を無理やり押し込めてもいいことはない

ぶどうの木

――少しずつ緩やかにハンドルを切られているなかで、ほかに何か変えられたことはありますか? 

(本)これも創業社長ならではのことだと思うのですが、経営トップと現場とが全部直接つながっていたのです。つまり先代の時代は、社長をハブにして、肥大化した現場がそこにすべて紐づいていた。いい意味でいえば「フラット化」ですが、悪い意味でとらえると、中間の管理職があまり育っていないという問題を抱えていました。

たとえば稟議にしても、形の上では役職順に上がってくる。しかし経営トップにまで来た時点で、「いや、これはだめや」となったら、即座にその現場に戻るのです。間にいる役職者が何も知らないまま、結論が違う形になったりしていました。だから、中間の管理職の人たちがだんだん、「判断をお任せします」と、無責任な態度をとるようになっていました。

そこで事業部を再編して、もし私が「NO」を出しても直接現場にいわず、順を追って戻させることにしました。いまもそれに力を入れています。中間の管理職の人たちが、いわば経営者である自分の分身のごとく判断していってくれないと、アメーバ経営は機能しないはずですから。

――そうですね。小集団のリーダーのマネジメント能力を高めることが、アメーバ経営を成功させる肝ですから。

(本)物事を動かすスピードを一番早くするには、たしかに現場と経営者がダイレクトにつながればよいでしょう。一方で経営者も人間ですから、出せるスポークの数の限界が物理的に決まっているわけで、500人も相手にはできないはずです。そうすると、経営トップのかわりに動ける人を多く育てることが必要なことだと思うのです。

――先代は理解して、見守ってくれていますか?

(本)いえいえ、そんなことはないですよ。「そんなことをしておったら日が暮れる」っていいますよ(笑)。でも、そうするしかない。私のハブとしてのスポークの数は、先代社長よりも随分少ないと思っていますので。また、スポークの先にまたハブができて、そこから新たなスポークを広げないと、大きな組織にはできませんから。

――このような、いくつかの新たな施策を打ち出しながら、経営基盤はしっかりとしておられる。それは、創業者と後継者のお2人の力で、アメーバ経営の経営管理システムとフィロソフィとを時間をかけて社員に浸透させ、熟成されてこられたからこそですね。うまく事業承継がなされている、素晴らしいケースかと思います。

(本)いや、ほんとうにうまく行ったかどうかは、もう少し先に結果が出てくると思います。もちろん、うまく行かせたいのですが。

私は、エネルギーの塊である恒星を、無理やり押し込めても、いいことはないと思っています。幸いなことに、創業者である先代社長は商品開発が一番好きです。「できることならそれだけしたい」ともいっている。また私も、「できることなら、それだけをしていて貰えればありがたい」と考えていて、父にはそこに力を費やして貰いたいのです。

新しく去年発売された商品で、「わらび餅バウム」というものがあります。そもそもわらび餅とバウムクーヘンを組み合わせるなど、一般の職人さんだったら、絶対に出てこない発想です。先代社長が「夏場に売れるバウムクーヘンをつくりたい」といって、常識では考えられない商品を実現させ、おかげさまでヒットしています。

こういうことができるのは、やはり「やりたいことを形にしたい」という思いの強い創業者の力の賜物です。それを存分に利用しない手はないし、そのエネルギーを無理やり閉じ込めても、爆発するだけです。エネルギーを有効に利用したほうが、会社にとって得に決まっています。申し訳ないのですが、父にはまだまだ「プロ」として、超楽観的に、いままでにない商品をどんどん生み出していってほしい。強くお願いしたいと思います。

著者紹介

本康之輔(もとこうのすけ)

株式会社ぶどうの木代表

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