イノベーションを妨げるパワハラ上司が、バブル経験世代に多くなる理由
松崎一葉(筑波大学医学医療系 産業精神医学・宇宙医学グループ教授)
2019年01月09日 公開
2022年03月10日 更新
クラッシャー上司がイノベーションの芽をつぶす
ただ、そうした「承認」欲求レベルでバリバリ働いている人たちでも、そう簡単には「イノベーションを起こす」ことはできない。言葉は悪いが、上の顔色を窺っているような人に、想定外の創造的アクションは起こせないということだ。
もうちょっとていねいに言うと、「この部署は、俺が、俺のやり方で引っ張ってきている」と胸を張って言える社員は、その人の能力のサイズまでは確実に業績を上げられる。
だが、その人が想定できないような爆発的な成功というのは、「俺のやり方」では絶対に収められない。突破するには、その人のサイズを超えなければならない。
いわゆるイノベーターは、「承認」欲求よりもう一段上の、「自己実現」や「真善美」の欲求を強く持っている。それは、偏見なく事実を受け入れて、問題を正しく解決し、持続的に、自発的に創造していく態度を前提とする。
イノベーションが起きるところには、そうした高次の欲求に導かれる、新しい商品やビジネスモデルの種、荒削りなシーズを見逃さない眼がある。
シーズを持っているのはたいてい若者で、それに気づいた上司が「あ、なるほどね」「いいこと考えているね」と評価し、「この発想を伸ばしていくにはどうしたらいいかな」と伴走することで、イノベーションへの突破口が開ける。
だから、イノベーションを起こすには、まず、若者からどんどんシーズを引き出し、それを上司が持っているスキルでまとめ、共に実現させていくというプロセスが不可欠なのだ。
であるからして、そうした構造とは正反対のクラッシャー上司がいるような職場からは、イノベーションが起きることはないだろう。
どんなにデキる上司が部署を率いていても、その人がクラッシャー的では、若者が持っているシーズに気づくことすらできないのである。
いや、クラッシャー上司にしたら、承認欲求レベルを超えたところで働きたい若者なんていうのは「お花畑の夢を見ている現実知らず」程度にしか映らないだろうから、貴重な人材を潰しにかかりかねない。
クラッシャー上司自身がイノベーションを起こせないのは仕方ないとしても、その芽を踏みにじるような行為をする者は是正されるべきである。