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生き方

「右腕の切断」を宣告された少年に起きた“奇跡”

山田清機(ノンフィクション作家),〔撮影〕尾関裕士

2019年11月08日 公開 2022年12月19日 更新

 

奇跡は数カ月後に起こった

息子の体の一部がなくなる。それは、母親にとって想像以上の衝撃だった。「私の腕を切って移植できるなら、そうしてあげたいって本気で思いました。

切断する時期は腫瘍の成長度合いによって決めようというお話だったので、それまでに腕のある息子の姿を映像に残しておきたいと思って、私、あらゆる試合とあらゆる学校行事についていきました」

一方芦田は、まったく別のことを考えていた。

「オトンとオカンは、とうとう切断かという感じでしたけど、僕は10年も好きな運動を我慢してきたのに結局切るしかないんか、どうせ切るんだったら、それまで好きなことを思い切りやったるわという気分でした」

「運動するな」と言われ続けたことへの反発もあった。再発への苛立ちもあった。芦田は中学生最後の春休みから陸上部の練習に参加し、走って走って走りまくった。やり場のない思いを、走ることにぶつけた。

「もやもやが走力に直結したパターンでしたね」

100m走で、いきなり11秒台半ばのタイムが出た。部活でトップの記録である。

「俺、早えーぞ。これまで我慢ばっかりしてきたけど、俺、自分の好きな運動で輝けるかもしれないぞ」

数カ月後、芦田は定期検診で田野の元を訪れた。田野はいつも下ばかり向いていた芦田が、顔を上げて真っすぐに自分を見詰めてくるのに驚いた。

MRIの画像を見ながら、田野が怪訝な顔で言った。

「君、何かやったん?」
「思い切り走りました」
「運動したらダメやろ」

田野が苦笑した。腫瘍の成長が止まっていた。奇跡が起こったのだ。

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