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反対派も多い“男性育休の義務化”…「人事部の本音」は?



2020年10月17日 公開

小室淑恵

 

経営戦略としての男性育休

妻が最も「産後うつ」に陥りやすい時期にも連日遅く帰宅せざるを得ず、育児参画がほぼできなかった。かつては多くの企業がそういった働き方を強要してきました。

すると、今さら急に夕食どきに帰宅しても、家族全員から「え?なんで早く帰ってきたの?」という反応をされたり、既に年頃に育った子どもたちとの会話が成り立たなかったりして、早く帰ることをかえって辛く感じるのです。この構造を解決しなければ、フラリーマンが再生産され続けます。

2019年の労基法改正を受けて、企業が一斉に時間当たり生産性を意識し、定時で帰らせようとし、必要な制度改正を行ないました。その結果たどり着いた真実は、時間当たり生産性を上げるために重要なことは、生産性高く効率的に働いて、早く帰り家族に会いたいと思う社員自身の「内的欲求」であるということ。

その関係性を構築する第一歩が、男性の育児休業であるということなのです。企業の人事部が口々に「男性で育休を取った前例が少ないことで、とにかく育休を取る人が出ない。いっそ、全員が取得することを義務付けてくれたらいいのに」と言い出しました。

いまだかつてなかったことですが、企業側が福利厚生ではなく経営戦略として、企業の生産性向上のために男性の育休を推進したいというニーズが急増したのです。

企業人事からの研修依頼内容も、2019年から明らかに、男性育休取得率を引き上げるためにその必要性を話してほしいというものが増えました。

 

経営トップは、実は男性育休に反対していない?

そしてもう1つ、企業側に大きな変化がありました。各社の経営トップの変化です。

愛知県の、ある自動車業界トップと対談した際に「最近、孫が可愛くてね。でもそれを口にすると妻から怒られるんですよ。『そりゃあ、あなたは自分の子どもたちの子育てを一切しなかったから、孫の全てが新鮮で可愛いのよ』ってね。うちの子どもたちにもこんなに可愛い時期があったのに、俺が見逃していたのかと思うと本当に後悔してね。こんな想いは、うちの社員にはさせたくないなあ」とおっしゃるのです。

「では、もしかして、自社の男性社員の育児休業取得には賛成なのですか?そんなお気持ちは、社員には一切伝わっていませんよ」とお伝えしました。目標達成に厳しくて有名な社長がまさか「ぜひ男も育児で休みなさい」と思っているとは、横で聞いていた人事部長も役員も皆衝撃を受けていました。

この社長との対談をきっかけに多くの経営者とディスカッションしてみて分かったことは、優秀な経営者ほど高度経済成長期に猛烈な働き方で大成功した経験を持ちつつも、今失ったものの大きさにも気づいているということでした。こうした「一周回って気がついた経営者」は、もう男性育休に反対はしていなかったのです。

ところが、中間管理職が勝手に慮って、育休を取ろうとする部下に「男が育休なんか取ったら、この会社ではキャリアが終わりだぞ」というパワハラまがいの忠告(もしくは育休を取得した男性を降格するなどのパタハラ)をしているのです。

こうした管理職の行動を変えるためにも「もう経営トップは、男性育休に反対していない」という事実を何とか最速のスピードで末端まで知らしめることはできないかと考え、対談の帰り道の新幹線で企画を考えて立ち上げたのが「男性育休100%宣言」です。

「男性の育児参画を応援します!」というような漠然とした宣言ではなく、100%という定量的なワードにしました。

目標必達文化を持つ経営者の皆さんがこのワードを使うからには、本気で取り組まなければなりません。そのため、宣言を集めるのは決して簡単ではなかったのですが、予想を上回り83社もの経営トップが「男性育休100%」を宣言しました。

そして、トップが100%を目指すと宣言したことで、今度は急に「100%にしなくては!」と人事部の意識も上昇しました。こうして、人事担当者が男性育休取得促進のための勉強会に続々と参加される傾向が高まったのも、2019年の大きな変化でした。

 

男性育休「義務化」は必要なのか

ここまで読まれて、人材評価のルールチェンジや経営者の意識の変化など、男性育休取得にプラスの流れが来ているならば、義務化までしなくてもいいのではないかと思う方もいるかもしれません。

それは逆です。組織側に本質的なニーズが無い時に法律で義務化しても「あのように無理な法律に対応することは難しいので、全男性に産後1日だけ育休を取得させて100%にしろ」というような抜け穴を探す企業が増えるだけです。

形だけ整えても本質は全く変化しないため、法制化したことがかえって仇となるのです。つまり、男性育休取得を推し進めたい企業側のニーズがある今、それをサポートする形で法制化することで、本質的な企業の行動変容を促すことができるのです。



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